英国がEUから離脱したことで、世界に衝撃がはしった。
事前の予想は余りにも楽観論に偏向していたための油断だろう。残留派にとっては、最悪と言われるシナリオを生み出したことになる!
たった1日、1度の国民投票によって国(有権者:4649万人)の命運が決められ、世界は予測できない不安の連鎖の渦中に置かれることになったのだ。グローバル時代の国々は政治・経済的にも極めて高度、複雑な判断を国民投票に委ねてしまったことが問題でもある。
勝利したと大喜びをしている離脱派の人々、しかし、その事によって引き起こされるだろう様々な混乱、「負」となる結果については理解も出来ていなかったのだろう。
「EU圏への自由な貿易も、単一市場へのアクセスも続くし、移民政策の主導権も取り戻せる」と述べていた離脱派の主張は全く保証されたものではないのだ。
英国は1972年にEUに加入以来、「EUのルールから派生する法律、経済、組織、環境政策、労働規制などに深く織り込まれている」のだと言われている。イギリスのルールとして置き換えには何年もかかるだろうし、貿易協定も新たに作り直さなくてはならないことになる。
実は、今回の離脱を促す動機の一つでもあるといわれる。EUの大統領・議会・法律が各国の法律よりも優先され、通貨の統一、EUの決定がすべてに優先されるということ。
つまり、自国のルールは通用せず、28ケ国に共通するルール――「子供だけで風船を膨らませたらだめ!」、「ハイパワーすぎる掃除機はダメ!」、「曲がったバナナはダメ」などという、やや意味不明なルール。自分たちの分担金は大きく、職場が奪われることになる難民の受け入れも拒否できないとは・・・。
価値観も経済状態も、生活状態のレベルも異なる国々、28ヶ国が単一と言われるルール、その「生き方」を強いられることに耐えられないと言う不満だ!
離脱派にとっては自立的な生き方、かつての大英帝国のプライドを取り戻したいと言う動機だったのだろう。しかし、世界同時株安、不況、50万人の失業も予想もされている・・・。このあとどうなるのだという不安はつのり慌ててもいる。
国民投票のやり直しを求める署名の数が4百万を超えたのだと言う。ただ、キャメロン首相は、「2度目の国民投票はない」と以前から明言していたのだ。

ところで、離脱するには、どういう手続きがあるのだろう?
加盟国がEUを離脱したことは、これまでにもない経験だった。加盟各国の政府は、イギリスの今回の国民投票に対する国内世論を受けて政治的な判断をすることになる。
EU―27ヶ国にとっても課題は多いし、組織を存続させるためにももう一度タガを締め直さなければならないだろう。他にも、EUに対して懐疑的な国内勢力がその機を窺ってもいるからだ。とにかく、イギリス1国の試み――EU離脱問題が「世界同時不況」という不安心理を拡散させている!
我が国にとっても、やっと不況を抜け出せたと思う間もなく、また不況のトンネルがその先にも続くことになる。グローバルな時代には国々が群れて絡まり、複雑に依存しあって生きるということだろう。

(2016・7・3記)
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メモ:
・1960~70年頃の英国は成熟し、経済も疲弊していた。「英国病」とも、「黄昏のロンドン」とも揶揄されて・・・。私が訪れたのもその頃だった。確か3度目だっただろうか、その後も折々に訪れることになった国だ。『産業革命』の地であり、「先進の工業化社会の工業デザイン」を学ぶためでもあったからだ。
ヒースロウ空港から地下鉄に乗ったのだが、どこの駅だったろう・・・はじめて、数本のユーロ旗を見た。参加国の数を表すのだという星、はためく中で6~7個を数えるのも苦労だったが、大変だったが・・・。
時折、覗いたダウンタウンの「パブ」は「ホワイトカラー」と「ブルーカラー」に入り口が分けられており、ビール片手にそれぞれのグループが熱くなって喋り合っている姿を物珍しく眺めていた。
思い出すのは、ロンドンの中心にあり広大な広がりを持つハイドパーク、その一角に「スピ-カーズコーナー」があったこと。日曜日の午後、群がる人々の中で、演者はおもむろに持参した箱に乗り、自らのテーマについて演説を始める。やがて人の輪が出来て議論が始まると言う仕組みだ。そんな議論の輪がそこここに、口角泡を飛ばしての激しいやり取りにもなる。誰が、何をテーマにしようともかまわず喋り始めるが、興味を持たれないと人は集まらないし議論にもならない。聴衆を集める話術もそれぞれの工夫があるようだ。目の前の演者、その向こうにも何やらオーバーな手振り、身振りで独り喋る演者が気になった。人ごみを縫って近付くのだが声は聞こえない。怪訝な顔をして近づく人々を見ると突然大声で喋り始めた。どうやら人を引き寄せる術だったようだ。なにかと議論が好きな人種だとも思ったものだった。「離脱か」「残留か」についても延々と議論されたに違いない。「言論の自由」を認め、自らの意見を戦わせる・・・。
1866年に労働者の選挙権拡大を求めてデモを行なった際に、演説の権利を主張したことで生まれたといわれ、その伝統はいまに継承されている大英帝国の伝統。世界の盟主と言う意識、プライド故の結果でもあったのだろう離脱という選択。が、今後のビジョンは不透明なのだ!
ヨーロッパ・国境を隔て、自国の存在を主張しあっているようにも見えた国々、共存するために一つのヨーロッパを目指すEUにドーバ海峡を境界にしながらも自国の主張が抑え込まれてしまうという感覚、我慢、鬱積したものがあったはずだ。特に中高年にとっては希薄化する生活実感に我慢が出来なかったと言うのが離脱派の心情だろう。
・イギリスの国民投票はグローバリゼイシヨンが呼び起こしている変化や課題を示しているのだと思う。(オバマ アメリカ大統領 スタンフォード大学 講演にて)
・アメリカとイギリスで起きていることは似ている点がある。人々は国境を求めているし、自分の国にどこの誰ともわからない人々が流れ込んでくるのを嫌がっている。(ドナルド・トランプ 所有のゴルフ場にて・スコットランド)
・日本にとって円高は輸出に大打撃であり、在英1000社にとって英国が、EU圏への輸出の窓口となるものであるだけに、離脱と言うことになれば大問題に。
・英国のEU離脱ショックは、テニスのウィンブルドン選手権にも影を落としているのだと言う。ポンド安が進み、海外の選手たちにとっては賞金が目減りする可能性がある。
日本円も1ポンド=160円程度だったものが、パニック時に120円台になり、現在は137円程度で推移している。錦織 圭選手が円で使うと目減りすることになる。「世界一の賞金」と豪語したウィンブルドン主催者にとっても残念なことだろう。

・国民投票をめぐる直近の世論調査の結果(読売新聞 2016/6・23)
:OR(電 話)――――――― 残留53%  離脱46%
:サーベーション(電話)――残留45%  離脱42%
:ユーガブ(ネット)――― 残留42%  離脱44%
:オピニアム(ネット)―― 残留44%  離脱44%

・投票率:72.2% 「まさか!」と言う思いであろう人々の動揺は、
:離脱:51.9% 1741万票
:残留:48・1% 1614万票

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