みなさまご存知のように、日本の製造業は今大きな転換期にきていると思います。戦後、日本の製造業は、持ち前のバイタリティーで立ち直りました。その中でも自動車産業の成長は目覚しいものがあります。自動車産業は戦後50年、欧米先進諸国のビックメーカー (ベンツやGMなど)をモデルに、追いつけ、追い越せを“密かな合言葉”にがんばってきた時代でもあります。 それは、他の製造業も基本的に同じ流れだと思います。この事実は結果から見れば、“大変幸福な時代”であったと思います。なぜか! それはひたすら“追う立場でがんばる”というワンパターンの企業活動で通用する時代だったからです。これを別視点で見た場合、“苦境”の始まりでもありました。つまり、自分の会社や業界が本格的に、「追われる立場、追われてもガードしながら成長する」時代を想定して戦略を立て、素早く実行する“体質”がなかなか身につかなかったからです。

■自転車業界
上記の問題意識に対して、まず自転車業界を調査してみました。業界は戦後長きにわたり繁栄を謳歌してきました。日本で開発生産し日本人に販売して利益がでる。まことにありがたい時代が長く続きました。しかし、1980年代から台湾製激安自転車の輸入が始まり、その後、みなさまご存知のように中国製激安自転車が大量に輸入され販売されまし た。結果はなんと1000万台の販売台数の内、600万台が中国を中心とする輸入自転車になってしまったのです。 ここ10年たらずで激変しました。この問題に対して自転車業界は“アジアの実力を軽視”して十分な対応をしてこなかったからです。また商品構成のグレードUPも、十分なブランド戦略もなされていなかったため、急遽対応しても消 費者が動きませんでした。ヒアリングをした専門家のご意見では、現状では、「独立企業として、長期で生き残る企業は3社くらい」という辛口のご意見でした。

■家電業界
では家電業界はどうでしょう。一時期「家電の優等生」と言われマスコミを賑わした某家電中堅企業は独立した会社としてやっていくのが大変厳しくなりました。大変残念なことです。これについて、専門家のご意見では、複数の原因がありますが、ポイントは最初に自転車業界と同じように、アジア諸国に低コスト部品を求めて進出したことです。その後、力をつけたアジアの部品企業が、簡単な家電商品を自力で開発生産し、それを“激安”で販売してきた。そのためと、この会社のような低価格商品が中心企業は大変苦しくなったということです。この傾向は程度の差こそあれ、家電業界全体に共通しています。

■優良企業
次に、日本を代表する優良企業である世界的エレクトロニクス企業の場合、大変好調で過去最高の決算を計上しています。しかし、この企業の社長は大変な危機感を抱いています。その原因は2点ほどあります。その一つは、主力商品のカメラや複写機が、中国を中心としたアジアの国々に真似され、市場を奪われるかもしれないという恐怖です。もう一つは、先端技術商品もアメリカなどでは政府と民間の共同研究があります。この場合、他国の民間企業が簡単に参入できないシステムになっています。(有力先端技術の自国内企業への囲いこみです)。これが大きく広がると、先端商品でビジネスすることが難しくなるという事です。
以上3つの事例でわかるように、日本の製造業は国際的に上から抑えられ、下からは猛烈な勢いで追い上げられ、中間で出口がみつかず、大騒ぎしている姿が浮かびあがります。今までの日本の製造業が経験したことがない状況です。また、最初で説明したように長い間、現在のような状況を想定して動く“体質”が身につかなったということです。

■消費者の変化
時代の流れと共に、消費者の意識も大きく変化しました。それは激安自転車(ブランドもない商品)に代表されるように、「9800円ぐらいなら、多少粗雑な商品でも買う」 「1年間壊れないで乗れればよい」「盗まれても安い商品だから警察に届けないでまた買う」というような大きな意識の変化です。つまり日本商品の最大の特徴である“品質神話”がくずれだしてきたことです。過去の日本人の価値観から考えると大変な変化です。この変化が他の商品にも広がると大変なことになります。これとは別にもう一つの大きな変化があります。これもみなさんご存知のように消費の2極化傾向です。“平成大不況”と言われる時代に、欧米一流ブランド品は売れに売れています。最も代表的なルイ・ビトンは右肩上がりの成長をとげ、その中でも日本売上比率は実に全世界の50%と言われています。こうしてみると、多くの日本の製造業の商品は欧米一流ブランド品なみの訴求力はなく、中国製の激安商品ほどの価格競争力もないという事実です。経営が絶好調の本田技研も、一部のバイクを除いては安価~中級品の企業です。「自動車産業は自転車や家電のにの前にはならない」との意見も結構あります。私も簡単に追いつかれるビジネスではないと思います。しかし、だれかが保証してくれるものではありません。自転車業界関係者のヒアリングでわかったことは、「自分の業界は大丈夫」と言う意識が不幸を招いた事実です。

■今後の対応策
いろいろ心配な状況がたくさんある中、日本の製造業は未来に向かって具体的にどのように動けばよいのか!

世界の好調企業を、よき事例として参考にすれば「3つの案」が考えられる。
●その1:「価格競争力をつける」日本ではユニクロの成功例があります。アメリカでは、デル・コンピューター社のPC事例があります。
●その2:「世界NO1&世界の一流品を目指す」具体的にはキャノンの高級カメラがあります。シマノの自転車部品もあります(自転車業界でこの一社だけが好調です)。だれもが知っているベンツの乗用車があります。
●その3:「独創的な商品で勝負する」日本では日清のカップヌードルがあります。富士写真のレンズ付きフィルムがあります。ソニーのプレステもあります。イギリスのダイソンの掃除機も大変有名です(社長のダイソン氏はデザイナー出身)。→「その3」は私が個人的に最も関心がある分野!

■結論
戦後の50年をデザイン活動の視点でみれば、“普通のデザイナー”にとって大変良き時代だった思います。大きな流れで見た場合、デザインや商品が特に優れていなくとも、造ればなんとか売れた時代でした。しかし、この良き時代は終わった! と私は考えています。
次の時代の日本の製造業は、今まで以上に、アイデアも含めた高度なデザイン、魅力的なデザインのみが、市場で評価され、売れる時代に移行すると思います。

本文は紙面の関係上、ダイジェスト版ですませました。
今後は在校生・研究室・OBのみなさんが、私くしの勝手な意見に惑わされず、有益なデザイン活動をされることを願っています。

辛口の反論も含め皆様のご意見をおまちしています。

加藤 均 E-mail:michi_b.b23@livedoor.com

★加藤さんのレポートに対するコメント(清水敏成教授/S36年度卒)が寄稿されています。
 是非御覧下さい。

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