アルツハイマーの原因物質の脳内蓄積を1滴の血液で調べることが出来る。その簡便な 検査法を開発したと、国立長寿医療研究センターと島津製作所の研究チームが発表した。 調べるのはアミロイド-β、発症の 20 年ほど前から脳内に蓄積するとされる。人生 100 歳 時代を迎えようとするいま、その根本的な治療薬の開発が促進されることに。 その研究チームには、2002 年のノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が名を連ねていた。 私には今日まで続けようなど思いもよらなかったコラム、その 2 回目、『変人=異能人の 時代へ』に登場させて頂いた人物だった。当時は43歳、「なんで私が?」・・・と。下馬評にも上がらなかったサラリーマン技術者がノーベル賞を受賞したと言うのだか ら・・・驚いた!受賞理由は「生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発」 だ。よく理解出来なかったが、とにかく嬉しく思ったものだった。なにより素朴、質素で 飾らない人柄には惹かれた。口数は多くないが典型的な技術者であり日本人らしいと も・・・。ノーベル賞受賞者と言う最高の栄誉には、多分、もっと良い条件での誘いもあ っただろう、58 歳になる今も島津製作所の一社員として働き、病気の早期発見に役立つ分 析技術の研究に没頭されていたのだ。氏は「こうした機械を使い、見えないものを見える ものに、見えることで何かに役立つ。それが私たちのやりがいでも・・・」と。 「ノーベル賞の対象となった仕事ができたのは『きみのやっていることは素晴らしい!』 と励ましてくれた人のおかげであり、新しいことには失敗がつきものだから減点主義では なく、加点主義をとるべきだ」とも・・・。その著書、『生涯最高の失敗』(朝日選書)に は、まさに「その大失敗によって」成果が得られたのだと。また、ノーベル物理学賞 受 賞者の小柴昌俊氏の「何度も失敗して経験を重ねると、勘が冴えてくる」と言う言葉に強 く共感しているのだとも・・・。個人が創造性を発揮するために必要なものとして、ノー ベル博物館の館長があげている 9 項目を記してもいた。「勇気」、「挑戦」、「不屈の意 志」、「組合せ」、「新たな視点」、「遊び心」、「偶然」、「努力」、「ひらめき」。 これはデザイナーであり、クリエーターならば、誰もが大なり小なりもっているものだろ うが・・・。そして、「運」の強さも・・・。 (2018/2・3 記)

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メモ:
●知識による議論を前提とする「ケース・メソッド」から、現場の観察・体験を通じて 課題を解決しようとする「フィールド・メソッド」へ・・・。 自らの「眼」であり、「手」を使っての行動の体験学習の重要性は、人間が生物体として の感性を育むものでもある。人間としての精細な思考と発想を促すためのこれまでのデザ インの演習と同じものだ。が、最近のデザイン思考は、必ずしもデザイン的な成果を求め るものではなく言葉の多様な解釈であり、広がりに目標が希薄化の傾向にあるのではと懸 念している。とくに、思うのは生物体としての行動・体験を持たないデザイナーはデザイ ン力としての確信、発想の「ひらめき」(→勘の冴え)をもてないだろうと考えている。 科学者による科学性の根拠となるものは、様々に行われる実験の繰り返し(失敗)の結果 として得られるものであるように・・・。

●島津製作所はエンジニア 1400 人余を擁する技術者集団の企業だ。明治時代、創業者の島 津源蔵は仏具職人だったが、欧米の「科学」に興味を持ち、1875 年(明治 8 年)京都にて 創業。仏具加工技術で科学実験教材を次々と国産化し「見えないものを見る・測る」分 析・計測機器を製造する。社員田中耕一氏の受賞も「タンパク質を分析計測できる方法を

発見」だった。これまでに開発した機器はビールの味や品質保持、節水シャワーヘッドの 開発など、食品や製造業、医療分野での研究開発になくてはならない存在でもある。2 代 目となる源蔵氏は、父親以上に科学に没頭し、日本で初めて X 線の撮影に成功、事業分野 を医療・分析機器へも広げる。私自身にとっても科学機器製品などのデザインを経験して いたこともあり、島津製作所製品は折々の展示会などでも注目していたものだ。その後の 「カンブリア宮殿」(TV 東京 2015/2・26 放映)で「島津製作所」の放映も見た。司会は 芥川賞作家 村上龍氏。武蔵野美大基礎デザイン学科の出身。 私が非常勤講師として務めていた頃、よく、お会いしていた先生の受講生だったこともあ り話題に。先生差し入れのカステラ(中村屋が先生のお好みらしい)とお茶を頂きながら の質疑応答?授業までの短い時間だが、池原池原止戈夫(東工大教授)先生との時間は楽 しく、「限りなく透明に近いブルー」(51 年度の芥川賞)の話し、MIT の試験や授業、新 聞を広げてのキャンパスの説明なども。しかし、なにより、『サイバネティックス』を提 唱した天才!ノーバート・ウィーナーの話題は特に興味深いものだった。かつて過ごして いたのだと言うアメリカからの一面に旅の様子を書き連らねられた絵葉書、そのハガキ、 偶然だが先日、数十年振りに書棚に見つけ、懐かしく読み返していた。

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この度は長らく学部運営にご苦労された野田学部長の後を受けて木村政司教授が学部長に就任された。新たな学部の可能性に向けての船出、舵取りです。大学運営も何かと厳 しい時代ではあるようですがしかし、卒業生、諸氏の応援、励ましがあって先生の強力な 推進力にもなるのだろうと思います。ぜひ!ご参集頂ければと思います。 勿論、当日はデザイン学科恒例の『ホームカミングデー』の開催日。卒業制作展を見なが ら何かとアドバイスがあれば、学生諸君の励みにもなるのではと思います。そんな熱い交 流の好循環すべてが日大パワーにもなるのだと思います。 私もこの度は老骨鞭打って、ぜひ、参加したいものと考えています。懐かしい皆様ともお 会い出来ればと考えています。

パーテイは 3 月 17 日(土)の午後 4 時から学生食堂(江古田校舎)で。その前には、 『17 年度 卒業制作展』を見ましょう!

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