最近は社会や産業の活性化にデザインの役割が見直されているようです。
しかし、その割には「デザイン」というものが余り理解されてはいない?
結果として生み出されたモノ=商品を見たり、触れたりすることはあっても、「ものづくり」そのデザインプロセスのさまざまなアプローチが語られたり、新しい「形」をつくる苦労が語られることが無いからなのでしょうか・・・。

「日々の生活に潤いといろどりを与えるモノづくり、それがデザイン・・・」。
そんなまばゆいほどの雑誌の記事を見てデザイナーになりたいと思い立った人も多いはずです。
「可愛い・・・」
「カッコいい・・・」
「きれい・・・」、
「もっともっと楽しい、ユニークな形の商品が出来るはずなのに・・・」
「平凡でつまらないものが多過ぎる、自分なら、もっと出来るはず!」、そう思った学生も多いようです・・・。
「こんなモノをつくった、デザイナーに頼むことは無いよー、どうだ!」と企業の社長さん。
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しかし、モノの「形」をつくることはそう簡単なことではなく、実は大変な思考のプロセスと時間を掛けてつくられるものなのです。

モノの具体的な「カタチ」を決めるきっかけは実にさまざま、一言では説明しがたいがたいもの・・・。
しかし、多くの場合は既にあるモノの改良。つまり「既製品」を新しい生活や使用条件に合わせて「より良いものにする」リ・デザイン・・・。
ただ、何よりも消費者というユザーの共感を得て「売れる」モノづくりが主たる目的にもなる・・・。

その為に新たなデザインの条件を加味し、既製品の問題点を列挙し、全体から問題のある部分へのリフアインが繰り返され、その新しい可能性を求めるのです。
もう一つは「新製品」という、これまでに無かった「モノ」の新たなインベンシヨン・デザイン。この場合は新しい用途の必要から、或いは、新技術や材料などの発明があってそのそのモノの形を具現化しなければならないとき・・・。
その場合には綿密に練り上げられた調査企画から得られたコンセプトをもとに形を求めることになります。条件をアイデアスケッチとして繰り返し考え「形」としてまとめるものです。どちらかと言えばそのものを構成する要素のアイデアを組み合わせる事から全体をまとめ上げていくことになるのです。
最終的にはデザイナーの「デザイン力」、芸術的センスや感性が大きくものをいうことになり、研ぎ澄まされた感覚と審美眼の有無がそのモノの完成度を分けることになります。
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ある程度は生来の能力であり才能でもある「デザイン力」、しかし、意識し努力することでその能力は確実に身に付くものでもある。
才能あるはずとの自信が打ち砕けるときがある。自分は駄目だと思うことも・・・。
勿論、止めたいと相談されたことも・・・。
それでも、「ヤル気」を失わず続けることが出来るかも才能の1つだと思います。
多かれ少なかれそんな壁を乗り越えてプロになる・・・。能力あるプロ・そんなデザイナーほど絶望的な壁を幾つも乗り越えているのだとも思います。
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理解不足、訓練不足!発想力不足・・・、そして、さまざまな造形素材の不足!
そのことが身をもって分かったものは、一歩プロに近づいたのだともいえることです。
「デザイン力」の芸術性、その表現力・造形力は何よりも独創的で最適な形を考えるための素材=形、質感、色彩そして、点、線、面、立体、空間などの造形要素を持って思考することが必要なのです。
最適なカタチを求めるには、その組み合わせ、その可能性を極力多く発想することが必要なのです。
造形化を触発する形体要素が少ないこと、また、それを巧みに表現する力=スケッチ力が重要でもあるのです。学ぶべきデザイン力の要素として大きい意味を持っています。

日頃から絶えずあらゆるものの「形」に興味を持ち”観察する”という心構えが必要です。「眼で観察」し、手の動きに変える」という、この一連の作業を繰り返す訓練、そして、何よりもその「観察眼」を研ぎ澄ますことが重要でもあると言えます。ただ漫然と眺めるだけではなく「強く意識した見方」、「思索する心」を持つことです。 我々が日ごろ目にする自然物、人工物の世界にも漠然としているだけでは気付かない無限の造形があり、その法則性があります。 フイールドには無限の示唆に富んだ素材があります。そんな訓練が、形のプロとしての厳しい「眼」を育むことになります。機能的内容は異なるにしても自然の造形、その数億年、数千年をかけて創り上げられた「カタチ」、「仕組みの妙」に感嘆し、その多様性を理解することも重要です。自然物、人工物を問わず興味深く「観察する」習慣を持つ人は何よりも資質に優れたと言えるのです。
(Sept.30/2006 記 ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

付記:

●モノの「形」を意識する・・・・
(1)ものを見る「心」、「観察眼」を養う
(2)自然物、人工物の「形」の成り立ちを明らかにする・・・
形態、構造、仕組み、質感、規則性、輪郭線、部分の結合形、細部の変化の把握、異材質の表現
(3)ものの「カタチ」を明瞭に観察できる光源・・・
ものの明暗、陰影、投影、反射などの十分な理解をもつて形状観察を試みる
(4)「眼」視知覚的な法則性の理解・・・錯視、空間・線のパースペクテーブ
(5)紙面という空間の把握・・・スケール感、比例関係、構図、収まりを考える美意識
(6)自然物・人工物の美醜の判断力を持つ識者、専門家の意見も参考にする
(7)その他、数理的な正確さ、仕組み、色や形状の秩序の造形には見習うことも多い

● 「モノ」を形づくるもの・・・・・
(1) 目的用途・・・操作性、収納・携帯性など夫々の形を探る(5W1Hによる情報収集・ 認識)
(2)機能性能・・・機能・性能的部位による合目的な構成特性のカタチを求める
(3)使用空間・・・使用・設置空間の特性からのカタチ。安全・安定・必要寸法
(4) 加工性・・・・製造・加工技術とその限界性からのカタチ。生産コスト条件も・・・
(5) 材料特性・・・材料、新素材からのカタチ、使用の可能性、省資源・リサイクルせいも・・・
(6) 造形美・・・・全てを1つに美しい形としてまとめ上げる。競合製品との比較で独自性を考慮する事も重要・・・プロダクト・アイデンティティ(7) 色彩材質・・・製品の色、嗜好・流行色Gその他

● モノのカタチをつくる基本
(1)製品としての性能を求める様々な機能部品=構成要素を秩序ある形にまとめ統一性、併せて機能性能を示す「らしさ」という記号性をもたせる
(2)シンプルであることは存在の主張と合理性を示すもの、製品としての明快な印象をあたえる
(3)プロポーション・・・全体と部分、縦と横、正面と側面などの寸法比例などを時代の感性に合わせて考慮する。機能的でありながら、美しく新鮮で新奇性のある造形表現の組み合わせを選ぶこと
(4)シンメトリーは中心軸に対して左右が相似形であること、最もバランスがよく安定した形であるが単調であるとも見られアンシンメトリー、左右を変化させることで特徴的で動的な印象になります
(5)形、質感、色というモノの3要素の表現上のバランスを考える。その調和によって好ましい造形表情になります
(6)リズム感・・・さまざまな部分の大小の形、開口部などの造形要素を音楽のリズム感のように心地よく、遊び心をもたせながら表情の変化、魅力を持たせること
(7) アクセント・ワンポイント・・・製品の特性、機能部を強調することで製品を特徴付けるワンポイントを・・・・
(8)その他、さまざまな造形的表現を試みること


 

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