●普段はおだやかな黒目川

聞いたことのない警報音。スマホに表示された緊急速報。近くの川の水位が大雨で上昇し氾濫のおそれがあるため、危険警戒レベル4の避難勧告が出されました。聞いたことのない警報音はこの避難を促すものでした。

台風19号。10月6日に南鳥島近海で発生し、992ヘクトパスカルだった中心気圧は24時間で915ヘクトパスカルまで強さを増しました。それから3日間、中心気圧は915ヘクトパスカルのまま。勢力のピークが3日も続くのは極めて稀なことだそうです。この間にも台風は海からの水蒸気をどんどん取り込み、強い勢力のまま日本列島を覆うほどに巨大化していきました。そして10月12日、台風19号が日本列島をすっぽりと覆いながら上陸。暴風域は直径650キロメートルにも達しました。東京や神奈川、埼玉など各地に大雨特別警報が発令されました。
台風上陸前日の金曜日、小学校行事のあとスーパーに行くと、パン売り場やカップラーメン売り場がからっぽ。災害時に近所のスーパーがこんな状態になるのは東日本大震災以来です。日頃からある程度備蓄をしているとはいえ、なんだか落ち着かない気分になります。

●パン売り場とカップラーメン売り場

9月に発生した台風15号のときは猛烈な風で自宅の窓ガラスが割れるおそれがありました。その時を思い出し雨戸のない窓の対策をすることに。窓を保護するにはどうすればいいのか、ツイッターで検索。米印を描くようにガラスに養生テープを貼る、いやいや、テープを貼るとガラスそのものの強度が下がるからやめたほうがいい、など様々な情報が飛び交っています。結局、木の枝などの飛来物がガラス窓に当たって割れるのを防ぐためにガラス部分を段ボールで覆い、窓枠部分と段ボールを養生テープで固定しました。段ボール一枚でも、飛来物の衝撃を少しでも和らげられるのではないかと。

●外側

●内側

この頃、養生テープが売り切れ、ガムテープも品薄になりました。今年の流行語大賞に養生テープが選ばれるんじゃないかなとその頃は呑気に考えていました。

●台風から一ヶ月、ようやく店頭に

ほかにも懐中電灯を用意したり、スマホを充電したり、飛ばされそうなものを家の中に入れたり、もちろん子どもも外遊び終了。家の中へしっかりとしまいます。あとはひたすらご飯を炊く、おにぎりを握る。お母さんは台風が近づくとおにぎりを握りたくなる生き物です。(個人差があります)。
そんな中、冒頭の警報音。緊急地震速報とも違う聞き慣れない警報音にびっくりしました。

●近隣の地名が表示され焦りました

川は自宅から20メートルほど下がった場所にあります。距離は800メートルほど離れています。自宅は避難をしなければならない地域ではありませんが、自治体単位で警報を鳴らしているので避難の必要がない地域でも警報音が鳴るようです。それに、危険が迫っていることを知らずに浸水のおそれのある地域に向かってしまうかもしれません。避難を促されているのはすぐ隣の地域、指定されている避難所は子どもの通う小学校。まったくもって他人事ではありません。
避難所となった小学校の体育館に、ここまで本格的に人が避難してきたことはなかったのではないでしょうか。地震と違って台風は数日前から予測できる災害です。避難する時には食料を持っていくのが望ましいとされていますが、そこまで余裕がなかった人も多かったようです。すでに雨風が強まってしまってたら、荷物が避難の妨げになってしまいます。避難所となった体育館では、食べ物や水の配給に手間取ったようです。
しかも、私が住んでいる自治体では備蓄にペットポトルの水がありません。避難場所の小学校にある高架水槽で対応できると考えられているからです。
台風だけではなく、近年起きると予測されている首都直下型地震のことを考えると、災害への備えはこのような状態でいいのか不安になります。近年の地震被害をもとに専門家が行ったシュミレーションによると、首都直下型地震の発生から一週間後には、水道管の破損などで3600万人に断水の影響があるそうです。断水時の命綱はペットボトルの水ですが、地震発災から13日目で日本中のペットボトルの在庫が底をつくことが予想されています。地震であろうと台風であろうと日頃の備えは本当に大事です。
猛烈な雨の音がたたきつける不安な一夜。真夜中にもあの警報音が鳴ります。どうやって警報音が鳴らないようにするのかもわからない、でもスマホの電源を切るのも怖い。とりあえず音量を控えめにして寝ました。風には警戒していましたが、ここまで雨が降るなんて。一夜明けて、各地で被害が発生していることを知りました。多摩川が流れる川崎市高津区や、武蔵小杉駅周辺のタワーマンションの被害は予想をはるかに超えるものでした。台風15号が風台風だったのに対して、台風19号は雨台風だったのです。強風に警戒して急ごしらえした段ボール雨戸にも、なにか物がぶつかったような形跡はありませんでした。そのかわり目の前の公園は湖のようになっていました。
台風から一週間後、電車で多摩川を渡りました。いつもは人々がバーベキューをしたり子ども達が遊んだりしている河川敷。その変わりように驚きました。

●台風から1週間後の多摩川

12月12日現在、台風19号で亡くなった人は全国で99人、行方不明の人もいます。
301の河川で氾濫が発生し、浸水した面積は2万5000ヘクタール。これは前年の西日本豪雨を上回る広さです。さらに台風21号も発生し、被害が拡大してしまいました。
数日前から巨大な台風が強い勢力で上陸すると何度も呼びかけられていたのに。100人もの命が犠牲になったことをどう捉えればいいのか。台風というある程度予測できる自然災害で。
9月の台風15号、そして10月の台風19号。あまりの被害の大きさに、もう2018年の西日本豪雨も2017年の九州北部豪雨も記憶から薄れていってしまっています。
また新たな違ったタイプの災害が起きると、この台風のことも忘れていってしまうのでしょう。
令和という新しい時代が始まった矢先の大きな災害。今後起こりうる災害と、いい加減に本当に向き合うときがきているのではないでしょうか。災害のない年を願うのはもちろん、災害で命を落とさない備えや知識を身につける新しい年にしたいと思います。
2019年12月28日
増子瑞穂
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