東日本大震災から100日が過ぎました。余震はかなり減ったものの、油断はできません。先日も長野で震度5強の地震があったばかりです。
家で地震があ ったとき、子ども達と過ごしていて怖いと感じるのは、まずお風呂。言うまでもなく、素っぽんぽんだからです。逃げるに逃げられません。お風呂以外で、怖いと感じるのは食事をしているときです。

1歳の娘は転落防止用の安全バーがついている椅子に座って食事をしています。普段は安心して座らせることができ、大いに役にたっていますが、地震が来たとなると。安全バーが思わぬ邪魔となり、すぐに抱っこできないのです。では、普通の椅子に座らせればいいのかというとそんなことはなく。まだ食事のときに落ち着いて座っていられない月齢。思わぬ転倒、転落につながります。イザというときのために、安全バーのついていない普通の椅子を使い、日常生活でケガをしてしまったとしたら本末転倒 な話しです。また安全バーだけではなく、テーブルにも体がひっかかり慌ててしまうことも。楽しくリラックスできるはずの食事の時間が、震災以来何だかピリピリしてしまいます。

1995年1月17日に起こった阪神淡路大震災。兵庫県内で亡くなった方のおよそ9割は、家屋や家具類の倒壊による圧迫死や窒息死によるものでした。その多くは建物によるものですが、中には小さな子どもがピアノに挟まれたり、飛んできたテレビにあたって乳児が死亡したりした例もあります。幸い死に至らなくても、災害時には医療機関も思うように機能しなくなります。また、断水などから普段のような衛生面も保たれなくなります。災害時はほんの少しのケガが、大きな支障となりかねません。

家の中で倒れ やすい家具といえば、「本棚」「タンス類」そして「食器棚」です。過去の震災では、これらのものが倒れてきて、体が押しつぶされたり挟まれたりする例が多くありました。体に被害が及ばなくても、倒れたものが通路を塞ぎ、思うように避難できないことも。
なかでも食器棚は収納されている食器の重さだけでも100キログラム前後といわれ、倒れることに加えてこれらの食器が飛び出してくることで被害が大きくなります。また、食器棚には扉にガラスが使われていることが多く、このガラスが割れることも。食器棚そのものが倒れ、扉のガラスが割れ、さらに中に入っている食器類が上から降ってきて凶器となる。災害時、食器棚には2重3重のリスクがあるのです。

食事中に大きな地震が発生し 、子どもの座っているところに食器棚が倒れてきたり、食器が降ってきたりすることを想像したら。ゾッとします。阪神淡路大震災や東日本大震災のような震度6以上の揺れだった場合。とても自分の意思で動くことはできません。とっさに子どもを助けられないのです。

では、どうするか。まずは食器棚の置き場所を考える。ダイニングテーブルなど、人が食事をするところへ食器棚が転倒しないように配置する工夫が必要です。また、棚は高さがあればあるほど、当然倒れやすくなります。高さに対して、奥行きが10分の4以上あると、安定するといわれています。そして転倒防止のために、フックや金具などで食器棚を壁に固定する。そのためにはもちろん、食器棚は壁に対して背中をつけるようにし て置かなければなりません。間違っても、部屋を仕切るパーテーションのように置いてはなりません。倒れやすさが増してしまいます。

食器棚にガラスの扉が使われている場合、ガラスに飛散防止シートを貼る。床にガラスが散乱してしまった場合、小さな赤ちゃんにケガをさせないようにするのは困難です。また、揺れで扉が開いてしまわないようにロックをつける。あらかじめついているマグネット式の開放防止具は、揺れで食器が扉にぶつかると簡単に開いてしまいます。

そして、収納の仕方にも工夫を。棚の下の方には大皿などの重いものを。そして、上にはプラスチック食器やタッパーなどの軽いものを収納する。そうすると重心が下になるため、より倒れにくく、また倒れたとしても上から落 ちてくるのがプラスチックなどの軽いもののため被害が小さくなります。

床の素材によっても倒れる確率が変わってきます。フローリングよりも、絨毯や畳や塩ビシートの床のほうが家具は倒れやすくなります。地震発生時、固く滑りやすいフローリングでは、家具も揺れに合わせてフローリングの上を滑って力を逃がすため、倒れにくくなります。一方、絨毯や畳や塩ビシートの床は家具が滑りにくく、また長期間、家具を同じ場所に置くことで、家具が床にめりこみやすくなります。そのため揺れが起こった時に力を逃がすことができず倒れやすくなるのです。歩こうとした時に、足首をつかまれると転びそうになるのを想像すると分かりやすいかもしれません。

食器棚の設置場所や扉対策、収納方法 、床の材料について考えてきましたが、これらの対策を上回る究極の方法があります。それは、食器棚を置かないことです。3世代の大家族というのならともかく、小さな子どものいる家庭で、背の高い食器棚を置かなければならないほど、本当にそれほどの数の食器が必要でしょうか。普段、全く使っていない食器で子どもがケガをしたとしたら。何が大切なことなのか、見えてくる気がします。

ちなみに我が家には食器棚がありません。台所の流し台の下の収納に全て収まっています。倒れてくる食器棚がない我が家ですら、食事中に地震があると子ども達を守りきれるか、不安を感じます。子どもが食事をしているところへ倒れてくる位置に食器棚を配置しているとしたら。今すぐ改めていただきたいも のです。
食器棚だけではなく、ダイニングの大モノといえば冷蔵庫。必要不可欠なものですが食器棚同様、危険性は大です。そのものの重さはもちろん、中を見ると「ポン酢」「焼肉のタレ」などガラス製品がいっぱいです。冷蔵庫が倒れ、中のガラス製品が割れることは簡単に想像できます。冷蔵庫の配置にも気を配りたいものです。

3月11日の地震発生時、我が家にはたいした被害はなかったと思っていました。平積みにしていたCDが床に落ちたくらいだったと。数日後、2階の寝室のチェストが数センチ移動しているのに気がつきました。まさにフローリングの上を揺れに合わせて滑っていたのです。もし倒れたとしたら、まさに家族が寝ている場所です。それ以来、別の場所にチェストを移動した のはいうまでもありません。
震災以来、津波や放射能、地盤など様々な問題がとりあげられています。まずは身近なところに目を向け、今すぐ改善できることにとりかかるのも大切ではないでしょうか。
実際、食器棚を無くしたり、使うお皿を減らしたりというのは難しいことかもしれません。倒れにくい食器棚や割れにくいお皿のデザイン、開発など。震災以来、これからのデザインは「防災」というキーワードが欠かせなくなっていくのでしょうね。

先日、軽井沢セミナーが行われたそうですね。IDの1年生から4年生までが縦割りのグループになってアイデアを出し合い、デザインを練りあげていく毎年恒例のデザイン合宿。学生の皆さん、そして先生方、お疲れ様でした。今回のテーマは、「幼児、学童の非常用頭部保護帽子のデザイン」だったそう。この情報をセミナー帰りの肥田教授から聞き、思い出したのが「いのちを守るデザイン」(FOMS編著 遊子館発行2009年)に掲載されている株式会社イエローの「タタメット」です。福岡県西方沖 地震で、傾いたビルからガラスが降り注ぐ映像を見た開発者が、ヘルメットメーカーの協力のもと、ポリプロピレンを金型から起こして試作を続けたそう。ヘルメットでありながらたためる、収納性と携帯性に優れているこのタタメット。2009年発行の書籍の情報では子供用も開発中となっていましたが、株式会社イエローのサイトを見てみると子供用も製品化されていました。タタメットは先の震災もあって、4ヶ月待ちということです。参考になさってみてください。

2011年7月3日
増子瑞穂

株式会社イエロー
www.yellow-inc.com/

参考文献

改訂版 「大地震そのときどうする」 山村武彦著

「インテリアの地震対策 家具と家電製 品から人をまもる」
北浦かほる 北原昭男著

「いのちを守るデザイン」 FOMS編著

読売報道写真 「阪神大震災全記録」

●ダイニングテーブルと食器棚の位置関係。
右は、棚の背が壁側になく、さらに棚が倒れる方向にダイニングテーブルがあるため危険!

●震災で数センチ動いた我が家のチェスト。

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