●旅の記念にいただいたしんかい6500

2013年6月22日。歴史が塗り替えられました。と、いっても過言ではないと思います。「しんかい6500」という有人潜水調査船が、カリブ海の海底5000メートルを科学探査する様子が、生中継されました。これだけの深さからの科学探査を生中継するのは、世界で初めてのことです。この模様は、インターネットのニコニコ生放送で配信され、30万人以上の人が見守りました。私は、この番組のMCを担当しました。
しんかい6500とは、その名前の通り水深6500メートルまで潜ることができる潜水調査船です。それも人を乗せて!しんかい6500からの映像と音声は、光ファイバーと衛星を使って、カリブ海から日本へ届けられました。しんかい6500に光ファイバーを繋ぐのは初めての試みです。

深海へ行くのは宇宙に行くよりも難しい、とも言われています。なぜか。酸素がないから。これは宇宙も深海も同じです。大きな違いは気圧です。水の中、深く潜れば潜るほど高い気圧がかかります。地上は1気圧。水深1000メートルなら101気圧。水深6000メートルならば601気圧です。これは1平方センチメートルあたりに601キロの重さがかかっている状態。爪一枚くらいの広さに、軽自動車が乗っかっているのと同じこと。それも全身にびっしりと。深海に潜ったら、絶対に潜水船の外には出られません。水圧でつぶされてしまいます。宇宙のように、船の外に出て探査をしたり、修理をしたりできないのです。これが、深海へ行くことが難しいと言われている理由です。

しんかい6500に乗り込めるのは、パイロット、コパイロット、研究者の3人。パイロットは飯嶋一樹さん、コパイロットは池田瞳さん(女性です!)研究者は高井研さんです。直径2メートルほどのチタン合金製の球体がコックピットです。耐圧穀(たいあつこく)と呼ばれています。水圧から人命を守ってくれる大切な球体です。人が座れる広さは直径120センチほど、狭いです。マニピュレーターという名前のアームが2本ついていて、海底生物や岩などをつかんだり、掃除機のように吸い込んだりし、海底のサンプルをバスケットに入れて持ち帰ります。しんかい6500はそのままだと、水に浮くようにできています。バラスト、という重りを何百キロも積んで、沈ませるのです。海底に近づいたら 、バラストを半分捨て探査をします。探査が終わったら、再び残りのバラストを捨て、浮上します。バラストは鉄でできています。長い年月はかかりますが、地球に帰る素材が使われているのですね。
このしんかい6500をサポートするのが、支援母船「よこすか」。海面への着水、ひきあげ、メンテナンス、海底から持ち帰ったサンプルなどの研究、乗組員の食事なども、よこすか上で行われます。この支援母船よこすかと、しんかい6500を光ファイバーで繋いでの生中継が試みられました。

日本時間の6月22日午後10時半、カリブ海は朝8時半。しんかい6500は、支援母船よこすかのクレーンにつり上げられ、カリブ海に着水しました。うねりの高い海上、スイマーがしんかいの上に乗って、手作業でクレーンをはずします。そして船内の空気が抜かれ、しんかい6500はゆっくりと海底へ。着水から太陽の光が届かなくなるまでの深さ、5分から10分間は、トワイライトゾーンと呼ばれています。私たちの知っている海の色から、光の届かない世界まで、青から漆黒へのグラデーションが美しい時間です。
このトワイライトゾーンも、光ファイバーによる映像でしっかりと日本へ届けられました。

日本時間の午前1時30分頃、カリブ海はお昼前。しんかい6500は海底5000メートルへ到達。光ファイバーも無事に繋がっています。パイロット飯嶋さんの見事な操縦技術が光りました。(詳しくは研究員、高井研さんのコラムをご覧くださいませ。)
初めて、リアルタイムで見る、深海5000メートルの世界。イソギンチャクがいます。500気圧という凄まじい環境で生きられるなんて。チムニーという名前の煙突状の鉱床から300度を超える熱水がわき出し、鉛などの成分と混じって黒い煙が吹き出しているように見えます。「ブラックスモーカー」と呼ばれています。ブラックスモーカーが映し出された瞬間には、Twitterのトレンドに「ブラックスモーカー」があがっていました。(ちなみに、気圧が高いと水の沸点もあがるため、300度という温度に達するのですね)そのチムニーに無数の白いエビが群がっていました。海底5000メートル、300度を超える熱水、そんな過酷な環境でも生物がいる。その事実を、リアルタイムで共有しました。 マニピュレーターを使って、エビの回収も行われました。
海底探査を初めて1時間あまり、再びチムニー近くのエビを探査しているとき、光ファイバーの映像が途絶えました。ついに光ファイバーが切れてしまったのです。しかし、「トワイライトゾーン」や「ブラックスモーカー」、深海に住むイソギンチャクにエビ、初めてリアルタイムで見る深海の世界に多くの人が興奮し、感動しました。もちろん、Twitterのトレンドにも「光ファイバー」が。多くの人が探査の様子を見守って、思わずつぶやいた、ということですね。この光ファイバーの切断、「エビの呪い」では…という声も出ています。

日本時間の午前7時過ぎ、カリブ海は午後5時。探査を終えたしんかい6500は浮上。浮上したしんかい6500の姿は感動的で、浮上を見守っていた多くの人からのおかえりメッセージが番組に届けられました。カリブ海の夕暮れ時に、クレーンで母船よこすかにつり上げられるしんかい6500。3人の潜航者は無事、母船に戻ってきました。本当によかった。潜水に2時間半、探査に3時間、浮上にまた2時間半。合計8時間の旅を共有させていただきました。

深海の映像だけではなく、船内の様子もリアルタイムで中継されました。安全に潜航するためにひとつひとつ丁寧に作業していく様子に加え、雑談するなど和やかな雰囲気も伝わってきました。これまで、パイロット、コパイロット、研究者の3人しかリアルタイムで見られなかった世界。これを30万人以上の人に伝えてくれた全ての人に感謝です。
番組のエンディング。スタジオで一緒に番組を進めてくださった、しんかい6500元パイロットの吉梅剛さんから、手作りのしんかい6500をいただきました。割り箸を彫って作られた可愛らしいしんかい6500。乗船した研究員の方などに贈られてきたそうです。今回の潜航を見守った30万人を代表させていただき、ありがたく受け取りました(泣)。

夜から、深夜を経て、朝まで、12時間近くにわたった番組。一睡もしてません(笑)。いつ、中継が途切れるかわからないし、光ファイバーもいつ切れるかわからない。集中しっぱなしでした。番組が終わって、しばらくは、ほうけていました。今日もどこかで、だれかが海底へ科学探査の旅にでかけていると思うと、胸が熱くなります。

いくつか告知です。ニコニコ生放送の番組は、あらかじめ予約をしておかないと過去の放送が見られないのですが、今回のしんかい6500の番組は、会員登録(無料)をすれば、いつでも誰でも見られます。トワイライトゾーンの美しさ、しんかい6500に関わる全ての方の勇姿、ぜひご覧ください。
また、お台場にある日本科学未来館にはしんかい6500旧型の実物大模型が展示されています。耐圧穀に入ることもできます。
また、7月6日からは、上野の国立科学博物館で「深海展」が行われます。こちらではしんかい6500新型の実物大模型が展示されるそうです。

日本の有人潜水調査船は、今のところ潜れるのは水深6500メートルです。地球で最も深い海底は10000メートルを超えています。今、これを目指しています。しんかい11000になるのか、12000になるのか。日本の有人潜水調査船はもっと深いところへ。いつか、しんかいのパイロットになりたい、しんかいに乗る研究者になりたい、新しいしんかいを作る技術者になりたい、子ども達がそんな夢を持ってくれたらいいなと思います。

2013年7月1日
増子瑞穂
twitter.com/massykachan

「世界初へ挑戦」深海5000メートルへの有人科学探査を生中継JAMSTEC×ニコ生
会員登録(無料)をすればいつでも誰でも見られます。
live.nicovideo.jp/watch/lv139636921

マイナビニュース
生中継の成功は、多数のメディアにも取り上げられました。
news.mynavi.jp/news/2013/06/25/106/index.html

JAMSTEC海洋研究開発機構サイト
スタジオ写真も掲載されています。
www.jamstec.go.jp/6k_live/

研究員、高井研氏のリポート
ニコニコ生放送の画像も。
www.jamstec.go.jp/quelle2013/report/20130623.html

日本科学未来館
しんかい6500旧型の実物大模型が展示されています。
www.miraikan.jst.go.jp/exhibition/world/earth/abyss.html

深海展
上野の国立科学博物館で7月6日から。
しんかい6500新型の実物大模型が展示されるそうです。
deep-sea.jp

●しんかい6500(旧型)実物大模型

●スタジオで探査を見守るゲストの皆さん

●Twitterのトレンドに「ブラックスモーカー」

●ニコニコのキャラクターテレビちゃんも深海へ

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