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清水教授のデザインコラム/連載 - 99(12/04/2010)

「グッドデザイン大賞が決まった・・・・」

 グットデザイン大賞が決まった。「電気自動車-日産リーフ」や「カプセルホテ
ル-9h」、「宇宙実験施設・日本実験棟-きぼう」、「ソニーハイビジョン液晶テレ
ビ」、少なからず驚かされたが「AKB-48」など・・・。
あらかじめ優秀製品15点?がノミネートされた中から審査員とグットデザイン賞受賞企業等の票を集めた「ダイソン社の扇風機」が選ばれている。

解決すべき問題点・・・・

エアコンがすでに各家庭に浸透している我が国においては、その存在は忘れられがちなものとなっているのだが・・・。
それでも最近のエコ生活の中で、個別的な用途はのこされており、さらに言えば、世界の各地では、扇風機が使われており、まだまだ、扇風機を必要としている国も多い。
初期には黒塗装の金属製であったものがプラスチック材にかわると、色彩や形状の可能性が広がり、それらしき形状の表現も多くなった。また徐々に性能も向上し、併せて安全を確実なものにすることに多くの時間が使われている。
しかし、風を送りだすためのモーター、直結する羽根など、その基本となるデザイン形状、構造は今日まで大きく変わることはなかった。
何よりもその風をつくる効率を考えると、鋭利な形状をもつことになる羽根の高速回転部の安全性。手や指先、好奇心旺盛な幼児が怪我をする事例が結構相次いでいた。その問題を解決すること、また風そのものの快適性を研究することも、この種製品の主要なテーマとなっていたものだ。

先駆ける姿勢・・・・

ダイソン社は、扇風機が持つ、それらの問題のすべてを解決し、扇風機次世代をイメージさせる形状、機能と構造を具現化している。
風を送りだす部分を円柱本体の下部に置き、吹き上げる風をのみそのループ状のスリットから送りだすことで、その風の効率とこれまでの扇風機のイメージを一新する斬新な形状、安全性やメンテナンスなど多くのメリットを獲得している。
我が国においては既に特許出願されているのだと言う羽根なしの扇風機、重ね合わせると独自性は無いとの反論もあるようだが・・・。
しかし、何よりも他に先駆けて具現化する勇気が評価されるべきだろう。
独創するための莫大な投資、その結果のリスクを懸念しているだけでは決して新しい可能性は拓けないものだからだ。
ダイソン社の独創的な発想と先駆ける姿勢は、多くのデザイナーやエンジニアを刺
激し、触発することになるだろう。
新たな扇風機の用途、要求の可能性の広がりと変革への取り組みは、また、ここから始まるのだと言ってよい。

・・・・

東京ビックサイトの広い会場、人混みをぬって見回ったが、3千百点余から千百点余に審査、選抜されたのだと云う様々な製品、建築など・・・。その評価の難しさ、ご苦労を思ったものだ。
後日、「安定した豊かさのためのデザイン」と題する2010年度グッドデザイン賞 審
査委員長 深澤直人氏のコメントを読ませて頂いた。
審査の総括となるものだろう内容には、いささかの不安と疑問が残った。

形状の「差異」「個性」はなくならない・・・・

もののかたちは技術の進化にともなって、より必然的な方向に向いながらも、しかし、企業、個人、それぞれの異なる価値観や解釈、技術力によって固有のカタチとして表現されることになる。
そのことが必然を求める行為でもあり、多様な視点からの可能性を求める健全なデザイン行為だと考える。
デザイナーでありエンジニアでもあるダイソン社長の扇風機が今回大賞を得たのも、そのことを示しており、サイクロン掃除機がその可能性の端緒を拓いたものであった。
ダイソン社が極めたという掃除機であれ、大賞であった扇風機であれ、必ず進化・成
熟の道をたどることになるが、完結した一つの姿に絞りこまれる、完結と云い得るものはない・・・。
必ず次が意識されているからだ。
収束するという意識は、間違えば安易なものづくりに終始する末期的な現象を意味するもの。決して究極の姿に近ずいている自然な現象、健康的なデザイン行為であるとはいえないものだろう。

デザイン・技術情報の共有・・・・

ネット時代に突入し、世界規模で飛び交うデザイン・技術の情報、特に視覚的な情報の共有はデザインの発想における独創性を希薄なものにしている。様々な与条件、マスセールスを第一主義としながらも投資リスクを恐れる経営、販路からの有形無形の圧力などと何よりもリスクを避けたいとする潜在意識となってより安全値に近いものを選ぶことになる。
また、なによりも、それらの情報収集に多くの時間を消費し、デザインプロセスにおける発想の時間を圧縮してしまう。
或いはその圧倒的な時間がデザインワークだというデザイナーの錯覚もあるのではないか?
つまり、デザイナーの独自性をもった発想に欠ける結果と考えると、決して、ものが機能を有した究極の姿として、1つのカタチに収束されているということではないのだ。

発想の厚みを・・・

後発企業が、何よりも先行する我が国企業、そして製品を超えることを明確な目標としながらも、ユザーニーズ最優先のデザイン・製品開発を進めている。
独断的な体制にある中でもデザイナー個々の自在で奔放な発想が見られ、デザインの効果が見えるもの、期待されるものに。
我が国は様々なしがらみの中でのデザイン発想であり、突き抜けて独創することを許さない環境になってきており、また、デザイナーもそのことに納得、順応しているようにみえる。
かってのように、デザイナーは常に新鮮な眼差しを生活環境に向け、「変える」「新しくする」という問題意識をもち、自らのアンテナを研ぎ澄ます心掛けが必要なのでは・・・。

仕分け時の「2番目では駄目ですか?」という愚問に通じる大きな問題でもある。
現状に安住せず、常に次への可能性をもたなければ、人の心はよどむことになる。

(2010/12・3 記)

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メモ:審査領域(デザインの領域)

ユニット1:
身の回り品、健康・ケア・介護用品、スポーツ用品、趣味・ホビー用品
ユニット2:
雑貨・日用品、食卓・調理用品、家電機器?洗濯機、掃除機などの白物家電からキッチン用品やベビー用品まで、普段の生活で誰もが使うアイテム
ユニット3:
家具・インテリア用品、住宅設備機器や部材など生活周辺のあらゆる商品が対象
ユニット4:
産業・土木建築関連機器設備など
ユニット5:
オフィス関連機器設備、販売・展示関連機器設備、医療関連機器設備、福祉関連機器設備、教育関連機器設備、公共機器設備など
ユニット6:
個人向け車両、乗用車および関連商品、産業・運輸・土木建築関連車両、公共交通関連車両?EVカーやハイブリッドカー、EVバイク、電動アシスト自転車など。また、この先端技術のモビリティを支える計器類や、タイヤ等の部品
ユニット7:
戸建住宅・集合住宅?現在、求められているのは、飽和状態にある住宅産業に風穴を開けるようなイノベーション(技術革新)の試みである。
ユニット8:
オフィス・店舗・生産関連施設?企業活動に関わる建築空間、利潤を追求する施設。
ユニット9:
公共・文化教育関連施設、土木・環境関連施設、まちづくり・地域づくり環境やエコへの考慮はすでに当然となり、低成長少子化の時代のなかでいかに地域に勇気と元気を与え、我々が今後向かうべき方向を示唆するもの。
ユニット10:
個人向けのサービスシステム、家庭向けのサービスシステム、産業・企業向けサービスシステム、公共サービスシステム?サービス・ビジネス(個々のソフトウェアやシステム製品ではない)。
ユニット11:
携帯電話・モバイル通信端末、個人向けA&V機器など
工業製品としては比較的速い速度で進化してきたモノのカテゴリーである。
ユニット12:
個人向けパソコン、および周辺機器、家庭向けパソコン、および周辺機器、業務用・公共用コンピュータ、および周辺機
ユニット13:
家庭用通信機器、家庭用A&V機器、業務用・公共用通信機器、業務用・公共用A&V機器など
・フロンティアデザイン賞
昨年より新設された「フロンティアデザイン賞」は「未来のグッドデザイン賞」ひいては「デザインの未来」。地球上様々な環境で暮す人々の「生活の質」が向上していくために考えられた美意識ある構成を指す。
・ロングライフデザイン賞
10年間にわたって「売れ続ける・支持され続ける」ということは、ただ機能が優れているとかデザインが良かったというだけではなく、それらを十分に充たしたうえで、私たちの日常に深く関わって、ゆるぎのないヒトとモノの関係を創りだし維持してきた、ということであろう。