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清水教授のデザインコラム/連載 - 98(11/01/2010)

「極限のデザイン―チリ落盤事故に習う・・・」
        生きるー極限のデザイン・・・・

 心の支えは家族・・・

 南米・チリのサンホセ鉱山事故で地下700メートルに閉じ込められた33人の作業員たち・・・。
自らの生存を確認させるあらゆる方法を試みながら、作業員たちは僅かな食料を分け合い、死を覚悟した極限状況のなかで耐え凌のぎながら命をつないでいた。
地上で捜索するドリルの音を遠く、微かに聞きながら過酷な環境の中で生きる気力を失っていった。しかし、暗闇の中でも考えることは家族のことばかりだったのだという・・・。
過去に例のない70日間にも及ぶ救出劇、急遽設計・製造されたカプセルによって全員の救出を終えるまで、その中継は世界中に大きな感動をよんだ。

Estamos Bien En EL Refugio los 33

「私たち33名は元気だ」という地底からのメモがドリルの先端に取り付けられて地上に届けられた。絶望感のなかで捜索作業をしていたすべての人々の歓喜がそここで爆発していた。
翌日からはそのドリルの穴から水や食糧が送り込まれ、交信が可能になって救助作業は慌ただしいものになっていた。
困難極まりない作業に取り組み、2カ月も早い救出作業にこぎつけたのは世界の英知だったのだろう。
さすがは、アメリカだ! NASA(米航空宇宙局)の支援チームは素早い現地入りで、宇宙開発によって蓄積されたノウハウが飛行士同様の閉鎖空間での生活を強いられた作業員の体調管理の助言などをおこなっている。
また、自薦、他薦によるそのための機器機材や技術が結集されて行われた救出作戦は素晴らしいもの・・・。
当初は、その事故の状態、複雑に重なる崩れやすい岩石地質など、救助の困難さを考えると「クリスマスに会おう!」という彼らへのメッセージが精一杯のものであったのだから・・・。

“生きる力”のすばらしさ・・・

世界のすべての人々がかたずをのんで見守ったであろう中で救助カプセルが徐々に引き上げられ最初の作業員が救出されたシーンは感動だった!
作業員と家族が抱き合って流した涙は彼らだけでなく、多くの人々の喜びでもあったろう。その感動を共有しながら、次々に救出される映像に見入っていた。
最後に救出され、右手を高々とあげるルイス・ウルスア氏と救出作業を見守り続けていたピニェラ大統領の安ど感と喜び、チリ鉱山落盤事故の救出劇は世界が注目し、各国メディアがテレビで生中継するなど詳しく報じられていたようだ。
命の尊さ、リーダーやチームワークの大切さ、そして何よりも“生きる力”意志のすばらしさを感じたものであった。

“生きること”を実感する日々・・・

一旦、事故が起きると助かることはないと思われる職場。
助かることは奇跡! そんな過酷な環境で働くのも生きるため、家族が日々を生活するためでもある。
『奇跡の生還スクープチリ鉱山事故の真実』(NHKスペシヤル10・24)では、これまでは、あまり知ることが出来なかった地底生活の様子が映像によって紹介され、その後の日常生活に幸せを感じ、心のゆらぎを垣間見せてくれるものであった。
なんでもない日々の生活、生きることの大切さを強く考えさせてくれるものであった。

生きることの実感・・・。
青い空、白い雲・・・・。
眩しい太陽の光・・・。
かけがえのない家族・・・。
孫との交流・・・。

われわれ日本人が学ぶものは多い・・・

この事故を最初に見たのは新聞だったろうか・・・。
「33名が皆元気だ」という地底からのメモが地上に届けられた頃だったから、それ以後関心をもっていたことになる。
新聞、テレビでも、そのニュースは連日のように流されていた。
「救助には、4カ月もかかる?」 地底深く、閉鎖空間に閉じ込められた人々のことを考えると、まるで自分がそこにいるような恐怖感と息苦しさを覚えたものだ。
しかし、世界の英知は困難極まりない作業をこなし、2カ月も早い救出作業を数日後に控えた頃、学生諸君にも意見を求めてみた。
ただ彼らにとっては遠い国の出来ごと、あまり関心の無いニュースだったようだ。 若者の無関心は、多くの識者が指摘していること、社会や世界への関心が失われ、新聞はもとより、テレビもニュースは見ないのだという。
たずねると、数名以外はほとんど知らなかったのだ。
あらゆる情報がいまは「好き・嫌い」、関心が「有る・無い」によって個人的に選別されてしまう・・・。
幼児性? 偏向しがちな情報に終始する生き方が気になることだ。

極限のデザインを考える・・・

「フエニックス」と命名された今回の救助カプセルが急遽設計・製造されている。そのコンセプト、具現化されたモノ=形状・構造の意味性、寸法、材質などの詳細を知るための情報収集を学生の課題にすることにした。
彼らが考えたこともない地球の裏側のはなし。
彼らの手段はインターネットだけだろうか?
新聞、テレビを見ることのほかに、他にどのような情報源をもっているのかをも知りたいことだが・・・。少ない情報であることは予測される。比較類推力、想像力が試されることにもなるだろう。さらに、「5W1H」の各項目を網羅し、十分に理解を深める・・・。

何よりも知識は広く客観性をもつことが必要で、新聞やテレビなど、自らの情報源を広くもつことを意識させたい。
一見、無関係と思えることが意味ある情報になる。
デザインは、そのことが重要であり深い思慮が要求されることなのだ。

                       (2010/11・1 記)

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メモ:
・チリでは昨年の事故で既に、30余名が死亡している。
・47年前(1963年)の救出劇、ドイツ北部レンゲデ鉱山で、今回のチリ鉱山落盤事故に似た救出劇があった。鉄鉱石鉱山が洪水で浸水し、取り残された11人が約2週間後に救出された。救出劇は当時まだ珍しかったテレビ生中継で報じられ、後に「レンゲデの奇跡」と題して映画化されたのだという。
・中国は今年3月、山西省王家嶺炭鉱で浸水事故が起き、坑内に閉じ込められた作業員153人のうち115人が8日ぶりに救出された。この時も中国メディアは「奇跡」と大々的に報じた。一方で、この事故では38人が死亡している。

経済成長が続く中国では、エネルギーの7割を石炭に依存しているが、安全管理を軽視した採掘が横行し、事故が相次ぎ、安全対策が十分でなかったことが調査で判明している。世界で最も炭鉱事故の犠牲者が多く、昨年だけで1616件の事故が発生し、2631人が死亡している。

中国各地に頻発する尖閣列島の領有権、日本製品ボイコットのデモ・・・。そこには事故防止をうつたえるプラカードも。共産党・指導部へ向けたい不満、批判を日本へ向ける不愉快!日の丸を踏みにじる群衆にも腹が立ち、厚顔、便乗のロシアにも腹が立つ・・・。