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清水教授のデザインコラム/連載 - 71(04/30/2008)

「鉄腕アトム」が生きた時代・・・・・・

●働くーー産業ロボット
 青白い閃光を放って火花が飛び散る。ひたすら働くロボットの群れ・・・。
つぎつぎに押し出されてくる構造体。と、周辺をうめるアームが一斉に動きはじめる。
あらかじめ指示されていた彼らの役割、その持分を終えると次に備える一瞬の静止・・。
誠実で生真面目な働きもの達は、それを営々と繰り返すことになる。
 ・・・・
「ロボ352万人力・・・」
「労働力不足8割をカバー」
「2025年の社会でロボットは352万人分の仕事をするという試算を経済産業省の関連団体『機械産業記念財団』がまとめた。
少子高齢化に伴って見込まれる労働力不足の8割強をロボットが肩代わりできる計算で、新たな戦力として期待できる結果となった。同財団は、17年後に於けるロボットの仕事量を、現在開発されている機能に基づき技術向上も加味して、労働人口に換算した。
その結果、小売業では商品配達、レジロボなどが65万人分、サービス業では集客施設での案内・清掃ロボなどが141万人分、医療福祉分野では入浴支援ロボなどが97人分の働きをすると予測された。
農林水産業、運輸通信業も合わせるとロボットは、計352万人分の業務を出来る見通しとなった。01〜05年に於ける産業別の生産性や就業者数の推移から、これから5業種では25年に427万人分の労働力が不足すると試算されている」(読売新聞'08・4/20)    

かって世界一を誇っていた日本の生産性も低コストをベースとする諸外国への製造・技術移転が国際的な競争力を失わせる結果にもなった。
その反省もあるが、労働人口の減少、或いは、生産コストの増大に対処するためにも優れたロボットシステムの導入は急がれている。
「ひとがやることは人が、ロボットに置き換えられるものはロボットに」と言う棲み分けは、人間の活動の全てに・・・。
いま産業界は言うにおよばず、家庭用水周り、家事厨房、遊びや学習にもおよび・・・。
また、福祉介護ロボットは介護者の労働の軽減・・・。
医用ロボットは外科医に代わって巧みに縫合手術までも。
地震や津波などの災害や消火などの特殊環境、人の危険な作業を代わるものなど、一層の効果を求めて開発、研究が進められている。
彼らの人間世界・活動の全てへの浸透と進化は止まることはない。
試算された数値をはるかに超えるものになるのではとも考えている。

車輪や足を環境効率に合わせて使いわける。平地面は車輪を、段差や瓦礫は足で歩くという移動具の実用化もまもなく出現することだろう。
また、時折目にする軍事利用の戦略兵器。兵隊に代わる攻撃・諜報機器などのロボット開発は秘かに、積極的に進められているのだ。人間の欲望、厳しい現実もある。

●遊ぶーーエンターテイメントロボ

1952年4月7日発売の雑誌「少年」に、はじめて「鉄腕アトム」が掲載された。
21世紀の未来世界を想定し、ロボットを主人公にした手塚治虫のマンガだ。

生みの親となる天馬博士は交通事故で失った息子の身代わりとして「アトム」を製作した。人間と同じ感情をもち、核融合ジェット噴射でマッハ 5で空を飛ぶ10万馬力。
60ヶ国語を話し、電子頭脳の記憶容量は1844ギガバイトの能力を持つていた。

しかし、ロボットのアトムは、身長135センチ、体重30キロ・・・。人間のように成長することはなく、天馬博士を落胆させることになった。
アトムの可能性は御茶ノ水博士に引継がれ、情操教育としてロボットの家族と家が与えられており、真面目で、正義感の強い少年として育っていった。
人間の小学校に通うことになり、時にロボットであることに苦悩し葛藤する。
21世紀・2003年4月7日がアトムの誕生日とされ、実現するであろう科学技術の粋を凝縮させたものだった。

しかし、51年前の1952年当時の我が国は、まだまだ発展途上国レベル。貧しい生活水準でもあり、考えると作者・手塚治虫の非凡な想像性・創造力に感嘆するばかり!
当時、松下幸之助がアメリカ視察から帰り、「これからはデザインの時代やで・・・」と、自社に意匠課を造ったといわれた時代・・・。海外の技術提携による組み立てが主流、NHK・TVが放送を開始する前年のことだ・・・。
私たちには21世紀が科学技術の可能性を予感出来るほどの能力も知識もなかったからだ。

いまは21世紀・2008年!
私たちは「鉄腕アトム」が生きた時代、手塚治虫が想い描いた未来世界に生きていることになる。幼い頃、そんな「鉄腕アトム」に感動し、触発されて研究者になったという者もおおい。少年たちの夢を育んだ「鉄腕アトム」づくりは、いま科学技術の新たな時代をむかえ、世界の最先端にある・・・。

機械が歩く・・・。
「アトム」を目指したヒュウマノイド型ロボットの開発はその前に人間の形、その動きに習うことになる。2本の手、2本の足を持ち、人間のように歩行できる機械だ。
しかし、幼児からの長い時間をかけて、人は人としての意識もなく座り、立ち、歩き、走る・・・。しかし、その具現化、機械化は並大抵のことではない。

その実験を初めてみたのはその第一人者、加藤一郎早稲田大学教授の研究室だった。
左右の脚を一歩前に踏み出してはバランスを崩し、数歩あるいては倒れた・・・。
人体を模した形態ながら腰部から下の構造、かえってバランスを欠くものだったのだろう。重厚だが初めて歩いた乳幼児にも似た歩みだった。

「人に与える『感動』と『愛着』は最先端の人工知能と機械技術を駆使することにより実現したもの、人とモノの新しい情緒的関係の創造」
1999年、ソニーが開発したロボット犬、「AIBO」は「グッドデザイン大賞」を受賞した。
そんなロボットもソニーやホンダから一層進化した運動能力をもって開発されてきた。
身長を低く抑えたこともあって歩き、走り、踊る陽気なロボットたち・・・。
ロボットにとっての望ましい姿は、人間、自らの極みを探り求めるものでもある。
ロボットが人間の能力に習い、代わる研究はまだその緒に点いたばかり・・・。
しかし、人間のロボット化は確実に進んでいるようにも見える。

                          (29 Apr. 2008 記)

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追伸:
・「鉄腕アトム」の誕生日である2003年4月7日には埼玉県新座市の市民権が与えられ登録されている。

・国の威信をかけた五輪の火が整然と進む・・・。
 トーチを掲げるランナー、それを取り囲んだ護衛の、そして両側に2列に警察による警
 備ランナーの列が・・・。
 これも我が国の、警察力の威信をかけて粛々と進めることを世界に示すことだった。
 事前に徹底したであろうシュミレーシヨン。そして、そのマニュアル・・・。
 隊列は折に、聖火を中にしてフオーメイションを変えながら走る。
 それでも数名の暴漢、赤旗を振りかざす人々の群れが走る。騒然とした雰囲気のなか 
 を、それでも無事に目的地にゴールしたようだ。
 平和を謳うべきオリンピック! 国々の思惑を聖火の炎に見るものになった。