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清水教授のデザインコラム/連載 - 125(01/06/2013)

スケッチ力―形のプロを目指す努力を!

 ある程度のスケッチ力は生来のものだが、さらに、デザイナーを目指すのだと1年、あるいは2年も塾に通っていたのだから、「もういいのでは」というという気分なのだとか・・・。
スケッチが単なる表現的なものとしてとらえられ技術的、技巧的なことに意識が偏向しているということかも知れない。と、すれば、パソコンを使えばデザインは出来ると考えたことだろうか。いまは、社会的にもスケッチ力が軽視されているようで、デザイン力としての感性、「カタチ」の本質や意味を読み取り新たに生みだす力を持てなくなくなるのでは、と懸念している。

わたしたちは、まずは眼を通して森羅万象と言われるあらゆるものをとらえ、その形や色、そして動きなどを見ている。
視線のさきにある「もの」、それが「わかる」ということは視覚や触覚、聴覚、嗅覚、味覚などという、いわゆる五感による経験を重ねた結果であるといえる。
手にとり握ったり、つまんでみたりと、見るだけでは分からない触覚的な経験もデザインにとっては極めて重要な情報であるといえる。 
自分が見て、触れるという感覚、観察し写生した幼児期の学びに通じるものでもあり、スケッチはそんな感覚をも呼び覚ますものでもある。

観察しスケッチするとき、それまでは気付くこともなかった様々なこと、例えば、機能と形の相互関係、細部の構造や断面、組み合わせた部位の形、材質、色や文字のレイアウトなどという新たな造形要素の発見など。
このような対象物との関わりあいはデザインプロセスの最初の段階におかれる問題の発見や探究、認識などといったことと深くかかわりあっている。
そこでは、デザインをすべき「問題」がどこにあるかを人間や社会、道具や環境を見てもデザインの問題を発見するには不十分であり、デザイナーに要求されるいくつかの観点や視点から考察することが必要だろう。スケッチは、これらの観点・視点の一つであり、対象物との関わりあい方、見方、態度は、その他の観点や視点のそれと共通するところが多い。

絵心があり、モノづくりが好きで、デザイナーを目指した。
しかし、人よりは資質能力をもつと自負し、身体に刻んできたのだという経験も、次世代の、未来を創造する感性のブラシュアップは常に意識せねばならないことだろう。メモやスケッチとしての記憶、手の動きを大脳に刻む一連の行為は、その繰り返しがデザイナーとしての脳力を一層充実させることになる。
        
白い紙、その紙面に線や面によって物体の存在感を表現するには、視知覚的な法則性や光と陰影の図学的な理解が必要だろう。
そのことを常に意識しながら線を引くことが大切で、線が交差する角度や手前から奥へ向かう線の太さや濃淡なども芯先に加える微妙な筆圧の変化によって表現することができる。
その滑らかな移動が自然な表現になり、精度の高いスケッチにもなる。

紙と鉛筆さえあれば、どこでも出来るし興味あるものやアイデアなどを描けばよい。
造形思考の方法として、線や面を自在に組み合わせる。様々なかたちの表現に必要な直線や大小の円弧を自在につなぎ、組み合わせることによって、あらゆるカタチ、想像し得ない無限の広がりを描き表すことが出来るものだ。
それらのスケッチによる自在な造形化の体験は、構造と形態についての思考、脳内におけるデザイン展開の可能性を高め、スピード化する力を持つことになる。
                         (2013/5・31 記)
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メモ:
・最近は授業の前にパッドを広げスケッチをすることを彼ら院生諸君にも課すことにした。
紙に描くという一見素朴な行為・・・。パソコンに依存するだけではなく、自分の頭と手で生み出す線やカタチに感動し、実感してもらいたいと強く思うからなのだが・・・。
手によるスケッチの意味、感触を確りと理解すれば、能力の拡充を自覚する自在な発想力にも結びつくのではないか、と期待もしている。
その時間、無心に熱心に描くことに集中しているようにみえる。ここでは高い効率性よりも、発想する自らの身体のリズムをとらえて欲しいとも思っている。

・『カッコよさも追求』 車のラフ・スケッチが張られた壁面、パソコンを前にカーデザイナーの写真が眼に止まった。「パソコンで自動車のデザイン画を描く宗像さん」(20日、日産自動車で)(読売新聞『しごとズーム/学ぶ育む』13/5・29日)と説明がある。
「子供の頃から、自動車が大好きで、ノートの片隅に形の美しい世界の名車を描いたりしていました。自動車をデザインする夢をかなえるため工業デザインを学べる大学に進み、自動車メーカーに・・・」と。日産自動車には、国内外に800人のデザイナーがコンセプトを基に、まずパソコンでデザイン画を描き、モデラーが実寸大の模型を作る。そこから2年余、数百回におよぶ修正作業を経て新型車は設計され生産されるのだとか。
安全性や便利さと併せて「かっこよさ」を追求。特にヘッドライト部分の流れるような形にこだわって何度も描き直したのだとか・・・。
さまざまなデザイン領域の中でも、予め「自動車のデザイナー」になりたいのだと熱く語り、様々に描きとめたスケッチやノートを見せられたのは、この分野の受験生諸君だった。多かれ少なかれ、車の魅力には幼児からの「夢」を膨らませ、工業デザイナーを目指して大学を受験したデザイナーは多い・・・。

・デザインは、モノの機能を最適な形にするために、素材を選び構造を考え、点、線、面、立体、空間などの造形的な要素によって構想し、さらに質感や色彩を考えることにもなる。
スケッチに求められるのは新らしさをもった有効な形、その可能性をより多く発想することがデザイナーには要求されることだ。
・紙面に辺りをつけたところに芯を当て、グルーッと一気に楕円を描く・・・。
しかし、線は10数ミリも離れて重ならない・・・。数回の繰り返しで、線の末端が、はじめの線に見事に重なると、線は面になり、紙面から自立した円盤になるから面白い!その無機的にみえる円盤も、さらに、奥の方の線を隠すように円弧を重ねると凸面に・・・。
・練習することは、手の動きを、自分が思う通りに動かすための訓練なのだ!つまり手馴らしということだ。グルーッと素早く描けるように楕円の軌道を一定のスピードで線を引くことが大切なのだ。

<用語>
・スケッチsketch  概略、印象を写し取った図。素描。
・デッサンdessin 単色の線や筆触によって物の形、明暗などを描いたもの。素描
          ものごとのあらすじ。
・エスキスesquisse
・クロッキーcroquis
・ドローイングdrawing
・素描
・写生