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清水教授のデザインコラム/連載 - 110(12/01/2011)

ジョブスの「こだわり」を「形」にする
インダストリアル・デザイナー ジョナサン・アイブとのパートナーシップ

ジョブスの「こだわり」を「形」にして見せた、デザイナージョナサン・アイブのデザイン力・・・。
ジョブスにとって幸運だったのは、そのアイブが残っていてくれたことだった。
1985年、30才のジョブスが創業したアップルを追放されたというショッキングなニュースが話題になっていた。しかし、その後も業績は悪化し倒産寸前の状態になっていた。
見切りをつけた優秀な人材は次々に流出し、混乱した社内は疑心暗鬼の状況にあったのだろう。そんな中で、ジョブスが復帰してくることになった。
スタッフとの意見がことごとく衝突し、冷酷で妥協しない烈しい性格。それゆえに追放した筈のジョブスに復帰を要請したのだ。
この時もまた、嫌悪感をもつスタッフがやめていく中で、アイブもその身の処し方を考えていた。
いまでこそ、あのジョブス自身の「こだわり」が、再生のコンセプトであり、「直感」がアップルを世界企業として奇跡的に復活させた救世主であることを知らぬ者はいないのだが・・・。その頃はなにしろ、傲慢で冷酷な人として恐れられていたのだ。

しかし、高校時代と短い大学時代の親友は「ジョブスは、気立てが良くてのんびりした性格だった」と述べている。また、彼の生き方とは矛盾することだが、反体制的な文化に強い関心をもち物質主義を否定し、インドに旅し、日本の禅寺に入門を考えていたのだとか。

「美意識」を共有するパートナー
ネクストでは、そんな彼の反面にある、「人をやる気にさせる」カリスマ性に心服し、アップルへの行動を共にした部下もいたようだ。
だが、冒頭に述べたようにジョブスにとって、なによりも幸運だったのは優秀なインダストリアル・デザイナー ジョナサン・アイブがパートナーとなったことだろう。
30歳でデザイングループのリーダーになったアイブはイギリスの出身。大学に在学中から多くのクライアントから誘いを受けていたといわれる才能ある人物だった。
アップルから誘いの話があった時には、ロンドンで急成長中のデザインスタジオ:タンジェリンを主宰していた。様々なデザインをこなす中で、電子機器の将来性、デザインの可能性を自らのテーマと考えていたのだろう。アップルこそが自らの運命を託し、実現する場であるとの決断だ!
もちろん、アイブにとっても偶然は美意識を共感出来るジョブスが復帰してきたことだった。ブラウンのデザイナー、データー・ラモス(コラム:75 less is more より単純に! 良いデザインの系譜'08/8・31)に触発されたのだというアイブ。彼の決断には、その「ブラウン」デザインのイメージが重なる美意識があったからだ。
CEOとなるジョブスは、大学時代、唯一興味魅かれた「カリグラフイー」を受講したということからも、デザインの可能性を直感していた。自らの体験で感じるものがあった、と云うことだろう。
デザインの可能性が、自らの「思い」を実現するものとして・・・。
ジョブスの製品コンセプト、「こだわり」や「イメージ」を、具現化して見せてくれたのはインダストリアル・デザイナー ジョナサン・アイブの非凡なデザイン力があってのことだ。ジョブスのパートナーとして強い信頼を得たということになる。
「ボタンを一つにする」という単純化、それはまさにデーター・ラモスが主張したデザインに通ずるものだった。

大衆に「従う」のではなく、「リードする」感性・・・・
ジョブスは、製品デザインに関しては、「市場調査」や「消費者グループの意見」に耳をかさず、業界の常識よりも自分の直観を信じた。
iMacの開発も「デスプレイ一体型は消費者に受けない」という調査結果の報告にも動じることは無かった。我が国では考えられないこと、CEOであるジョブスならではのことだろう。「僕は自分が欲しいものを知っているし、みんなが欲しがるものを知っている!」と。大衆の意見に「従う」のではなく「リードする」感性、自らを信じる強い信念があるということだ。
ステーブ・ジョブスはビジネス、パソコンや家電、映画や音楽などのメディア世界を瞬く間に革新している。
ビジネスと仕事が創造力や充実感、人生の意義の源になりえることをしめし、技術者や経営者もアーティスト感覚であること、優れたデザインと美意識が競争力をもつことを直感していたのだろう。
ジョブスの復帰によってアップルは倒産の危機を脱した。いまや、マイクロソフトやグーグルを抜き、エクソンモービルに次ぐ世界企業に飛躍していた。

しかし、世界経済はいま群雄割拠、下剋上の様相にある。一層の創造的環境を考えねばならないのだろう。
我が国においては、横並びを意識した経営、ユーザーという均質化に依存した発想、調査によって成功確率を高める数値が重視される。経営者はともかく、デザイン担当者にすら美意識は失われ、国際的にも後れをとっているのではと懸念されることだ。
ジョブスの精神は、しかし、我が国の中小企業など、営々としたものつくりを目指す職人の「心」、一層の「質を求める工夫」に、我が国独自といえ、世界に誇りうるものがある。

誇りと自信、製品に込めたメッセージ・・・
最近では、様々な製品分野で、「Made in China」「made in Taiwan」「 Made in Malaysia」といったように生産国表示をアジア諸国とするものが目立っている。アップル製品も例外ではなく、Mac ipodの製品外装には「Assembled in China」「Assembled in Malaysia」の文字を見つけられる。しかし、同社は、その前に必ず次の1文を掲げた点で、他社とは一線を画している。「Designed by Apple in California」
つまり、どこの国で生産されようとも、あるいは生産委託をしていても、この製品はカリフオニア州のアップルでデザインされたものであるという宣言だ!
'00年初頭ぐらいの製品から「Designed by Apple in California」という表記がつけられているようだ。尚、'90年代後期の初代iBookの背面にはこの表記は見当たらず、「Apple Cupertino, California 95014」とやや目立つサイズで印字されていた。
「Designed by Apple in the U.S.A」ではなく、California・・・。
シリコンバレーで創業した若い企業にとって、その自由な風土には強いこだわり、誇りをもっているということだろう。何より自らのデザインに強い誇りを示している。と。(ステーブ・ジョブス 偉人の軌跡より)

しかし、ジョブズ氏の死去により、同社がこれまで通りのクリエイティブな能力を維持できるかは注目されることだ。
天才に共通するものは自らを信じるあまり、人を見下す傲慢さがあり、他人の意見に従わない強情さがあることだ。その事が独創性を生みだす反面、自らの寿命をもちじめることにもなるのだ。
                         (2011/11・29 記)
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追記:取材嫌いと言われたスティーブ・ジョブズ氏が初めて心を許し積極的に協力したといわれる公式伝記が話題になっている。我が国では分冊として?〜?巻として出版されている。アップル社への復帰からCEOとして、iPhoneやiPadを誕生させた秘話があり、ジョブズ氏自身の家族との私生活、ライバルと言われたビル・ゲイツとの交流など。
参考文献:Newsweek 10・19「ジョブス、天才の軌跡」
    :「ステーブジョブス・偉人の軌跡」MacPeople×MACPOWER追悼号
    :AERA 10・24 ジョブス「妻と遺産」 
    :TV映像など、その他