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増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 -
144(02/12/2015)

「地球を掘る船、ちきゅう」

image●ちきゅう。Twitterをお使いの方は「#ちきゅう」で検索してみてください。背景青空のちきゅうはさらに素敵です。

 地球深部探査船「ちきゅう」をご存知でしょうか。地球の、深くを、探査する、船です。海の上で、船からパイプを降ろし、海底まで辿り着いたら海底下を掘って、岩や泥の試料を引き上げる。さらにその試料を船の上で研究、調査する。そんな技術と科学が詰まった船です。
JAMSTEC海洋研究開発機構の船、ちきゅう。今年で就航10周年を迎えました。それを記念して11月下旬、横浜港で一般公開が行われました。関東で一般公開が行われるのは10年ぶりです。それに合わせて、ちきゅうを取材する機会をいただきました。

このちきゅう、全長は210メートル。新幹線車両8両分くらいの長さです。とても大きな船ですが、なんといっても最大の特徴は中央にそびえ立つやぐら。デリックと呼ばれています。船底からデリックのてっぺんまでの高さは130メートル、圧倒されます。
さらにデリックのふもとにはぽっかりと四角い穴があいています。船なのに、ど真ん中に穴があいていることに驚きます。名前はムーンプール、素敵な名前です。
ちきゅうには数種類の掘削用パイプが積まれています。船上でパイプを繋ぎ、デリックでパイプを吊り上げ、ムーンプールから海底へパイプを降ろしていきます。パイプが海底に到達したら、いよいよ海底下へ。パイプの先端にはドリルビットという刃がつけられ固い岩盤を掘り進んでいきます。岩盤を掘る作業は、数ヶ月にわたることもあるとか。その間、ちきゅうは同じ場所にとどまり続けます。
いかに同じ場所に止まっていられるかがとても大事な船です。船の前後には合計6器のスラスター(主推進器)がついています。このスラスターは360度回転し、それぞれの動きを調整することによって、同じ場所に止まっていられるのです。
海の上ですから、風も波もあります。悪天候になることも。そんな中で、数週間、ときには数ヶ月も同じ場所にとどまれるなんて驚きです。

同じ場所にとどまりながら、ちきゅうは24時間、海底下の目的の場所に向かって掘り進んでいきます。そして人も24時間体制。12時間交代のシフトで作業しています。昼に作業する人もいれば、夜作業する人も。昼眠る人もいれば、夜眠る人も。24時間休むことのない船です。夜でも船内は明るく照らされ、遠目に見ると、さながらイルミネーションスポットのようです。
美しい船ですが、海の上で海底下を掘り進める作業は常に危険が伴います。取材のとき、かぶったヘルメットがずれてしまっているのを優しく指摘していただきました。どんな素晴らしい研究、探査も人命第一の上になりたっています。ちなみにちきゅう船内は禁酒です。航海の期間中、数ヶ月にわたって。それだけ危険を伴う作業をしているということです。

海底下から試料があがってくるのも24時間体制。決まった時間にあがってくるわけではないそう。試料があがってくると、乗船している研究者たちがわらわらと集まり、船内は熱気に包まれます。研究者にとって、海底下からやってくる岩や泥は宝の山なのですね。ちきゅうには研究施設があり、船内で試料の調査が行われます。CTスキャナーで非破壊の検査が行われたり、窒素で満たされた空間で詳しい分析がされたり。まさに科学の船です。

この試料によってなにがわかるのでしょうか。
2011年3月11日、東日本大震災。大津波を引き起こしたまさにその断層の試料を、ちきゅうは掘りあて持ち帰っていました。その断層を調べたところ、スメクタイトという成分が見つかりました。スメクタイトはファンデーションにも使われる成分で保湿効果があり、肌が滑らかになります。つまりとても滑りやすい物質です。この滑りやすい物質があることによって、海底下で大きなずれを引き起こし、あれだけ大きな津波になり甚大な被害に繋がりました。ちきゅうが掘りあて持ち帰る試料によって、地震のメカニズムがわかり、今後に役立てられるのです。
また、ちきゅうで働く若い人が、マントルへの夢を熱く語っているのが印象的でした。地球の体積の80パーセントを占める高温の岩石、マントル。固体でありながら対流し、地球の表面に大きな影響を与えていると考えられています。でもその実態は謎が多く、マントルを直接手にしたことがある人はまだいません。

「こんな技術があるから、こんなサイエンスが実現できる。こんなサイエンスの要求があるから、こんな技術が発達する」。
ちきゅうを案内していただきながら伺った言葉です。海底下7000メートルを掘りぬいて、マントルへ。ちきゅうが到達する日は、そう遠くない未来かもしれません。

2015年12月2日
増子瑞穂
https://twitter.com/massykachan

追記
ちきゅうリポートの様子はニコニコ生放送、無料会員登録でいつでもだれでも見られます。 およそ3時間の長編番組ですが、面白いのでサクッと見られます。ぜひ。
http://live.nicovideo.jp/watch/lv242192361

ちきゅうとは(JAMSTECサイト)
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/about/

「ちきゅう」10年の軌跡
https://www.youtube.com/watch?v=P3xRgGvuxyU&feature=youtu.be

関連コラム
「しんかい6500(本物!)」
http://www.nudn.net/maccy/117.html

「30万人で海底探査の旅〜しんかい6500」
http://www.nudn.net/maccy/115.html

 
































image●夜のちきゅう。イルミネーションのよう、とっても綺麗。

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●ちきゅうの江口さん(中央)澤田さん(右)とワタクシ。