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増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 96(12/01/2011)

「子どもと大江戸線めぐり」

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●新宿西口「青の壁」左側からみると青一面

 11月の日曜日。息子と2人で「大江戸線めぐりツアー」に参加しました。数字の「6」のような形の路線図を描く、都営地下鉄大江戸線。環状部は2000年に開通しました。この大江戸線環状部を途中下車しながら、ぐるっと一周します。
大江戸線は、それぞれの駅デザインが個性豊かで、各駅の改札口付近には「ゆとりの空間」という名前のパブリックアートスペースがあります。建設にかかったコストはほとんどの駅で同じですが、設計を担当したのは別々の企業や設計事務所です。同じコストでどんなデザインの駅ができたのか見比べられるのも、このツアーの面白さです。一部の駅は2001年のグッドデザイン賞に選ばれています。
案内してくれるのは、石村誠人さん。大江戸線環状部の建設を担当した東京都地下鉄建設に当時在籍されていました。大江戸線全体を「地下の現代美術館」ととらえたこのツアーは今回で82回目。これまでに参加した人は2000人を超えているそうです。今回の参加者は年配のご夫人とお孫さん、ご夫婦、お子さんを連れたお母さん、男性お一人、などまさに老若男女。5歳の息子を連れて行った私としては、他にもお子さん連れのお母さんがいることに安心しました。しかも4人のお子さんをお連れでした!

「新宿西口駅」
ツアーの集合は新宿西口駅のゆとりの空間「青の壁」前。さっそく地下鉄アートから始まります。節電の配慮からか薄暗い構内に、鮮やかな青が視界に飛び込んできます。まさに、待ち合わせにぴったりの場所です。青一面、と思っていたら右側からみると鏡になっていて、正面の改札や行き交う人々の姿を映しだしています。鏡面仕上げをした30枚のステンレス版を使ったこの作品。ステンレス版には円形の穴が開けられています。この板を壁面に対して45度の傾斜で配置し、人の動きによって作品が様々な表情を見せています。参加した子どもたちは作品の前を行ったり来たり。ステンレス版の穴に手を伸ばしては、自分達が映りこむ様子を楽しんでいました。

新宿西口駅
設計(株)マナベ建築設計事務所
ゆとりの空間「Crystal Stream 青の壁」作 箕原真 

「牛込神楽坂駅」
新宿西口駅から牛込神楽坂駅へ時計回りに移動。初めて降りる駅ですが、まずホームの色鮮やかさに驚きます。地下鉄の駅という既成概念を吹き飛ばしてくれます。様々なトーンの黄土色の構内は、まるで太陽の光が差し込んだピラミッドの内部のようです。ホームから改札へ向かう階段を上るだけでなんだかワクワクします。ホームのベンチは、プラスチックの既製品を設置しているだけの駅もあるのですが、ここ牛込神楽坂駅ではシンプルにデザインされたアルミ製のベンチを設置。一層ホームの明るさを際立たせていました。ゆとりの空間の作品も、地層をイメージした駅構内のデザインと統一感を持たせています。手で砂をかき集めたように見えるこの作品は、いわゆるトリックアート。何種類もの砂 を重ねたベースの上から、油絵の具で影を描いています。子ども達が「アレッ」と不思議そうに触れている姿は、なんともユーモラスでした。

牛込神楽坂駅
設計 前田雅之(有)空間工房
ゆとりの空間 「SAND PLAY 005」作 金昌永

「飯田橋駅」
続いて隣の飯田橋駅。この駅、なぜかホームがとても広く感じます。というのも、ホームにエスカレーターもエレベーターも階段もないのです。ホームの上には東西線、有楽町線、南北線の3つの路線が走っていて、建設の際、直接上に掘ることができなかったとか。そのため、ホームの両端に通路が延びていて、そこから改札に向かうという珍しい駅になっています。そのためホームを歩く距離が長いのですが、いたるところにそれを感じさせない工夫が凝らされています。まずは高い天井。本来、空調や配管などが収まっている部分ですが、これらはホームの下に配置。エスカレーターなどがないことに加えて、高い天井は地下鉄とは思えない、より広々とした空間を作り出しています。また水飲み場や消 火栓なども統一感のあるデザインで歩く人の目を楽しませてくれます。
飯田橋駅で最も有名なのは、改札口へ続くエスカレーターに設置された緑のフレーム。照明の役割をしているのとともに、エスカレーターに乗っているだけで、何かアトラクションにでも乗っているような楽しい気持ちになります。飯田橋駅のホームはとても深いところにあり、その分エスカレーターも長いのですが、ここではエスカレーターを歩くという行為をやめ、エスカレーターにゆっくり乗りながら作品を鑑賞したい気持ちにもさせてくれます。この駅を見るために、外国からの観光客も訪れるそうです。

飯田橋駅
設計 渡辺誠(株)アーキテクツオフィス

「清澄白河駅」
しばらく大江戸線にゆられて清澄白河駅へ。小さい子どもはそろそろ飽き始めるころですが、この駅に着くと子ども達から歓声があがりました。ホームの壁そのものが廃材を使ったアート作品です。江東区で高度経済成長期に生産された工業製品のスクラップが再利用されています。内回りと外回りで作品にそれぞれストーリーがあり、降りるホーム、場所によって全く違う作品に出会うことができます。もちろん電車ホームの壁ですから、スクラップアートに触れることができないことが子ども達は残念そうでした。

清澄白河駅
設計 (有)石原計画設計

「赤羽橋駅」
築地市場駅、汐留駅、大門駅を鑑賞して、赤羽橋駅。この駅のテーマはずばり「ガラス」です。とことんガラスにこだわっています。ホームの壁はガラスブロック、ホームの椅子もガラスブロックを使ったデザイン。そして、ホームの床はガラスを散りばめたタイル。床のガラスは赤羽橋の「赤」のガラスだけをこだわって使っています。降りる機会があったら、ホームの床にもちょっと注目してみてください。

赤羽橋駅
設計 (株)青島裕之建築設計室

「代々木駅」
麻布十番駅、六本木駅、青山一丁目駅、国立競技場駅を鑑賞し、大江戸線めぐりも最後、代々木駅へ。駅周辺には明治神宮や代々木公園があり、駅全体が杜(もり)をイメージしてデザインされています。ゆとりの空間には代々木の杜と自然をテーマにして作られた「杜と鳥たち」という名の作品。様々な色と形のテラコッタを組み合わせて、自然が表現されています。そこに金属製の小鳥を配置。金属なのに冷たさを感じない、むしろ温もりを感じる作品になっています。子ども達はエッジを丸く仕上げた小鳥たちに触れて遊んでいました。

代々木駅
ゆとりの空間 「杜と鳥たち」作 笹山忠保

普段、何気なく利用している大江戸線に新しい発見があり、楽しいツアーでした。しかし、開通から10年あまり、そしてそれぞれの作品が設置されてからも10年あまり。残念な発見もありました。
具体的には、麻布十番駅に設置されたゆとりの空間の作品。ステンレスを使った平面構成による作品ですが、雨漏りによって作品は錆び付き、あげくの果てには作品の上にポスターが貼られていました。駅関係者によって、作品が作品として扱われていないのです。たとえばこれが彫刻であったり、額縁に入れられた絵であったりしたら、まさかこのようなことはおこらなかったでしょう。メンテナンスの悪さに加えて、ポスターを貼られたことによって、行き交う人の中に、ここにアート作品があることに気づく人はいないのではないかと思います。

またこのご時世、節電の配慮から仕方がないことなのかもしれませんが、照明を使った作品は、ことごとく明かりが消されていました。大門駅のゆとりの空間「波のリズム」という作品。本来、照明によって作品が陰影を描き出すのですが、照明が消されたことによって、その魅力が充分に生かされていませんでした。また青山一丁目駅のゆとりの空間「花鳥風月」作品そのものがダイナミックで目をひく面白い作品ですが、本来は後ろから光を当て、影絵のように作品を浮かび上がらせるもの。ここも照明は消されたままでした。また、飯田橋駅のホーム、特徴ある天井も本来間接照明が照らされているのですが、ここも消されたままでした。
もちろん、今は節電への配慮も必要ですが、駅構内、必ずしも必要とは思えないところに照明がついていたのも確か。「アート作品の照明イコール贅沢なもの」と決めつけて、全て照明を消してしまうというのは、ちょっとさびしい発想ではないでしょうか。
作品の照明そのものが安全や防犯に役立つ場所もあるでしょうし、またこんな時だからこそ、人々の心を和ませる役割もあるのではないかと。せっかくの「ゆとりの空間」なのですから。

大江戸線環状部を半日かけてぐるっと一周。今回参加した大江戸線めぐり。子どもにとっても大人にとっても、アート作品に直接触れられる貴重な体験だと感じました。年中無休で楽しめ、しかも鑑賞料は無料。もちろん乗車券は必要ですが。一日乗車券を購入すれば、大江戸線を乗り継ぎながら、一日たっぷり地下鉄アートを堪能することができます。今回、途中下車しなかった駅も鑑賞してみたくなりました。
石村誠人さんによる大江戸線めぐり。次回は2012年2月19日に開催される予定だそうです。(詳しくは「駅デザインとパブリックアート研究会」ホームページをご覧ください。)石村さんの「地下の現代美術館」に対する、温かくユーモアたっぷりの解説を伺いながら駅をめぐると、地下鉄の見方が変わり、面白い発見にたくさん出会えます。

2011年11月30日
増子瑞穂
http://members3.jcom.home.ne.jp/massyweb/index2.htm


駅デザインとパブリックアート研究会
http://www.nmcnmc.jp/pubart/pubart-index.htm


キャスター増子瑞穂からのお知らせ
現在、日本歯科医師会の「8020日歯TV」に出演中です。
こちらもぜひアクセスしてみてください。
「警察歯科医とは?」
http://www.jda.or.jp/tv/45.html








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●新宿西口「青の壁」右側からは鏡に映りこむ面白さが
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●牛込神楽坂 ピラミッドの内部のような階段
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●牛込神楽坂「ゆとりの空間」触ってみたくなります
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●飯田橋 広々としたホーム、天井にも注目。
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●飯田橋 統一感あるデザインの消火栓と水飲み場
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●飯田橋 エスカレーター上のフレームimage
●清澄白河 ホームの壁がスクラップアート
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●赤羽橋 でこぼこに見えますが座るとフラット
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●代々木 ゆとりの空間「杜と鳥たち」
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●代々木 優しい手触りに加工された金属製の小鳥
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●麻布十番 ゆとりの空間、作品の上に貼られたポスター
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●青山一丁目 照明があれば、なお一層素敵なのでしょう
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●汐留駅のゆとりの空間前で解説する石村誠人さん