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増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 76(02/28/2010)

「2つの閉店のニュースから」

 今年1月、西武有楽町店が年内で閉店するニュースが大きく取り上げられました。閉店の理由は「消費環境の好転の兆しが一向に見えないなか、将来の可能性を見いだすことができなかった」からだそう。(有楽町西武HPから)
不景気が続く中モノが売れなくなっているのとともに、ユニクロやH&Mなど低価格のファッションに注目が集まり、経営が厳しくなったのも理由のひとつと見られています。そんな大きなニュースの影に隠れて、私にとってさらに大きな衝撃が走った閉店のニュースがあります。西武池袋店からのイルムスの撤退です。
1999年、池袋西武にオープンしたイルムス。北欧デザインの家具やプロダクト、テキスタイルを多数取り揃え、日本に北欧デザインの素晴らしさを伝えた先駆け的存在でした。以前マッシー通信で取り上げた、息子の2歳の誕生日プレゼント「イッタラのタンブラー」もこのイルムスで買い求めました。何か特別な買い物や贈り 物をしたいときには真っ先に訪れる場所でした。そして何も買うものがない時でも、質のいい北欧デザインに接することができる貴重な場所でした。ウン十万もするようなスワンチェアに実際に触れることが出来たのですから。北欧デザインのミュージアム的な役割も果たしてくれていました。また、フィンランドを代表するガラス デザイナー、オイヴァ・トイッカ氏のトークショーが行われたのもここイルムス。世界で活躍するデザイナーの話が聞ける空間がひとつ失われてしまったのも残念なことです。

 閉店にあたって、1月下旬から1ヶ月間に渡ってイルムスの閉店セールが行われました。初日に足を運んでみると、そこは黒山の人だかり。イッタラのグラス類やアラビアの食器などをまとめ買いする人の姿が目立ちました。私も第二子のためのイッタラのタンブラーや、使い勝手のよいクロス類を買い求めましたが、レジは長蛇の 列。会計だけで1時間待ったほどです。もちろんセール初日ということや手際の悪さも手伝ってのことだとは思いますが、これだけの人を集めるというのはモノに魅力があるということでしょう。しかし売れているものを見てみると食器や小物類ばかり。椅子やテーブルなどの家具類はセールの札が貼られていてもあまり売れていな いようでした。セールとはいえもともとの値段がそれなりなので格安とまではいきません。やはり消費の低迷から、値の張るものには消極的になっているのでしょう。私が買ったものもグラスとクロスという日常使いの求めやすい値段のものでしたし。同じ北欧デザインを扱っていても、リーズナブルさを売りにしている「イケア」 はあいかわらず好調に売れ上げを伸ばしているようです。

 北欧デザインの多くはインターネットで簡単に手に入れることができます。池袋西武から撤退するイルムスにもオンラインショッピングの専用サイトが設けられています。ほとんどのものは一度目にしたり触れたりしたことがあるものですから、必要な時にはインターネットで買うことができます。クリックひとつで自宅まで届けて くれるのですから、店舗がなくなるのも当然の流れなのかもしれません。でも、実際に手触りや厚みを感じて確かめて手に入れたいモノがあります。日常で使う身近なモノだからこそ、見て触れて吟味して選びたいのです。そこからデザイナーの思いが伝わってくる気がするのです。だからこそ、イルムスの存在は私にとって大切な ものでした。2月21日、池袋西武のイルムスは閉店しました。閉店の日、初日のにぎわいとはうらはらに人影もまばらで、ガランとした雰囲気。寂しさを感じましたが、なじみの客らしき人がスタッフと閉店について名残惜しそうに話す姿が印象的でした。その人にとってもここは大切な空間だったのでしょう。

 もうひとつ、気になる閉店のニュースがあります。マクドナルドの大規模な閉店のニュースです。
マクドナルドは先日、新戦略に伴う店舗改革の一環として2010年度中に全国の既存店400店舗以上を閉店することを発表しました。閉店するのは、キッチン面積が拡大できない店舗や不適切なロケーションにあるものなど、新戦略を適用できない店舗だそう。この新戦略の店舗はいわゆるカフェ系のイメージ。テレビコマーシ ャルでは歌舞伎役者を起用し、白を基調としたモダンなデザインの店内におそらくセブンチェアと思われる北欧デザインの椅子を配置。その空間でカフェラテなどを楽しむ大人たち。この新戦略のイメージを適用できない店舗は閉鎖されるといいます。
 マクドナルドといえば、昔から子連れで気軽に入れる店の代名詞。私も子どもの頃から数えきれないくらい行っていますし、親になった今でも子どもを連れてよく利用しています。親子連れにとってのマクドナルド、誕生日会にはキッズルームに思いのほかリアルなドナルドマクドナルドが登場したり、おもちゃのついたハッピーセ ットをほおばったり、親も子もにぎやかに過せる数少ない飲食店です。新戦略の店舗は、ニュースのイメージ写真を見てもシックで落ち着いた内装でカップルが語らう大人のイメージ。とても子どもたちのにぎやかな声は聞こえてきそうにありません。
 私がよく利用しているマクドナルドは近くのスーパーの中に入っている店舗。売り場面積はとても小さく、扱っていないメニューも多いのですが、週末ともなると家族連れでにぎわっています。スーパーの中というロケーションや客層の面からもこの新戦略のイメージからはほど遠い。いずれ閉店してしまう予感がしています。

 イルムスとマクドナルドという異業種の閉店のニュース。経営の悪化や企業の戦略など理由は様々ですが、あまりにあっさりと無くなってしまう現状に時代の流れを感じました。

2010年2月26日
増子瑞穂
http://members3.jcom.home.ne.jp/massyweb/

マクドナルドが2010年度中に433店舗閉店〜新世代店舗目指す
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100209-00000005-oric-ent

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●イルムス閉店セール最終日。初日は大行列だったのに人影はまばら。

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●見ているだけでうっとりするイッタラの食器類もセールに。

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●新戦略に近い店舗、池袋のマックカフェは大盛況。