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増子瑞穂さんの「キャスター・マッシー通信」連載 - 159(05/03/2017)

「待機児童を経験して」

 今年も保育園当落通知の季節になりました。杉並区で保育園に入れなかった親御さんたちが区役所の前で抗議の声をあげてから4年。「保育園落ちた日本死ね」のブログが話題になって1年。そしてまた今年も、保育園に入れなかった親御さんたちの怒りと悲しみの声が広がっています。保育園に入れる基準も、居住年数を新たに導入する自治体が出てくるなど「保活」をする人々は混乱したようです。第一子のとき保育園に入れない、いわゆる待機児童を3年経験し、第二子を出産後、ようやく兄妹別々ではありますが保育園に入園できてから6年が経ちました。第二子の娘はまもなく卒園を迎えます。

保育園に入って驚いたのは、保育園に対する保護者の要求の大きさです。もちろん子どもの命や安全に関わることならしっかり伝え、話し合う必要があります。しかし、そうとはいえないものも。
例えばお泊まり保育。お泊まり保育とは、子どもが保育園あるいは宿泊施設などに保育園の先生、友達と宿泊し、いろいろ経験する行事です。お泊まり保育の一日の中に遠足が盛り込まれていたり、様々なイベントが行われたりします。子どもにとってはいい思い出になり、成長の機会にもなりますが、保育士さんの負担は相当大きいと想像します。十何人という子どもの命を一晩預かるのですから。
一方、保護者からは遠足の行き先や、食事の内容に不満の声があがることも。そもそもこのご時世、お泊まり保育を実施している保育園のほうが珍しいです。息子の通っていた保育園では数年前からお泊まり保育はすでに廃止。それでも「お泊まり保育を復活させよう!」という運動が保護者から起こっていました。いずれにしても、待機児童を経験した身としては驚くばかりでした。
保育園に入園できているだけで、どれだけ恵まれていることか。保育園に入れない人々の多くは、手間のかかる行事などいらない、命と安全を守ってくれれば充分、とにかく子どもを預かって欲しい。そう願っていると思います。待機児童を経験した私がそうでした。多くの保育園は、定員ギリギリのスペースと人数ギリギリの保育士さんで、たくさんの子どもの命を守っているのですから、行事にまで手が回らないのが現状だと感じます。

間近に見てきた保育士さんの大変さ。風邪はもちろん、インフルエンザ、胃腸炎、ありとあらゆる病気に感染するおそれがあります。親ならば、感染リスクは自分の子どもからだけですが、保育士さんは何十人という子どもから病気をもらうリスクがあります。それでも抱っこしたり、あやしたり、愛情を持って子ども達に接してくれている。本当に頭が下がります。保育士さんの様子を見ていると、行事の内容などにあれこれ不満を言う気持ちにはなれません。でも私も、当たり前のように保育園に入れていたら、行事について不満を言っていたかもしれない。保育園に入れないなんて大変ねと、待機児童問題はただの他人事だったかもしれません。

保育園に通わせている保護者にとって待機児童問題が他人事だとしたら、いつまでたっても待機児童は減らないのでは。保育園の定員ももちろんありますが、今、保育園に通わせている親御さんがもう一歩、待機児童問題に向き合う気持ちを持てば、何か変わってくるのではないかと思います。保育士さんの仕事も少しは軽くなり、辞めてしまった保育士さんももう一度保育士になる気持ちを持ってくれるかもしれない。
私にとっても、待機児童問題はもう過去の事ではなく、当事者でなくなったからこそこれからも向き合おうと改めて思います。少なくとも待機児童問題は、赤ちゃんを抱っこした親御さんたちが、心も体も疲弊させながら取り組む問題ではないと思うのです。
東日本大震災が発生して1ヶ月も経たないうちに保育園に入園した娘。不安な気持ちもありました。子育てを助けてくださり、仕事を続けさせてくださり、保育園の方々には感謝してもしきれません。

2017年3月3日ひなまつり
増子瑞穂
https://twitter.com/massykachan

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