2歳児が海水浴に向かう途中で行方不明になったというニュースが放映されていた。地元警察、ボランテイアなど数百人体制で3日間、68時間も掛けて近くのため池や用水路、周辺の山間部などを重点的に探し、また、消防ヘリが上空からの捜索も行っていた。幼児が陥りそうな地形を探り万全の捜索をしているがまだ見つかっていない。
しかし、当日、駆け付けたのだというボランテアの男性によって、わずかに2~30分 まさにピンポイントの発見は、人々の絶望的な予感を裏切る嬉しい結末だった。3日ぶりに奇跡の生還を果たし、ひたすら無事を祈り続けた母親の胸に抱かれることが出来たのだ。
しかし、考えさせられることでもあった。一寸した油断がとんでもない事故につながるということであり、幼児捜索の定石だろう数百人体制での捜索のパターンにも、いくつかの再考されねばならないことがあるということだ。
2歳児というがこの世に生を受けて、まだ12ヶ月と数日・・・。誰よりも母親を頼りにしている時であり、母親の元へ引き返す動機ともなったものだ。この道を戻ればよいと思うが、戻るつもりなどさらさら無かったわけだから歩き始めても曲がる意識、曲がるところの目印すら憶えていないのは当然のことだろう。2歳児だが立ち、歩き始めたのはつい先頃のことだし、低い目線の視界を考えることも必要なのだ。歩いた数十メートル、数百メートルの距離、おじいちゃんの家・・・。漠然と周辺を見ながらひたすら歩きつづけ、生れてはじめての距離を歩いたのか疲れた、もう動けないと感じたのだろう。ほてった体を冷やすためにも水たまりに手を入れ、冷たい水を手ですくい夢中になって飲んだのだろうとも思う。濡れてしまったことに気付くと、気持ち悪くてパンツを脱いだのも人間としての本能だろう。それにしても、12ヶ月と数日の幼児が昼夜の68時間を一人で過ごし、無事であったということは奇跡?余にも条件にも恵まれた強運だったともいえることだ。
普通では一人ではまだまだ何も出来ないだろう幼児も暗闇の恐怖には息を殺し、泣くことすらもためらいながら夜明けをむかえ、昼間の熱い日差しには木陰の水たまりに足を浸しながら過ごすことができた。孤独と心細さという初めての体験については、最愛の母親の胸に抱かれ問われても頭を振り、決して語ろうとしなかった思いは複雑なものだったのだろう。

発見者は大分県から駆けつけた尾畠春夫(78歳)さんだ。
40歳で登山を始め、60歳前には由布岳登山道の整備ボランティアを始めてから25年来のボランテアなのだと。各地での災害に足を運び、遺品探しや泥かきにも汗を流してきた。 11年の東日本大震災では発生当初から約2年間も宮城で復興に助力していた。16年の熊本地震や昨年7月の九州北部豪雨、今年の西日本豪雨が発生した際も被災地に駆けつけていた。様々な捜索活動に積極的に参加した経験が生み出した直感力が生きたともいうのだ。それにしても・・・。これが私と同年代の高齢者?意気軒高でパワフル!目的意識が強くボランテアとしての行動に感動し、その純粋で一途な信念にも敬服している。見習うべき心意気でもある!
                       (2018/10・4記)
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メモ:
●「人は水さえ飲めれば、幼児であっても何日かは頑張れるもの。「2歳になったばかりの幼児が3日間も一人で過ごしていたとしたら、考えられないこと」と指摘する声もある。2歳児は食べる、着替えるなどの日常の動作を少しずつ取り組み始めるが、まだまだ一人では何もできない年頃だろうと考えがちなのだが・・・。幼児の3日間の稀有な体験は新たなデータともなるものだろう。

●人間は「何度も失敗して経験を重ねることで、勘が冴えてくるもの」だ、と言う言葉には多くの人が強く共感する、人間が「成長するための座右の銘」となるものだろう。
(連載-176「何度も失敗して経験を重ねると、勘が冴えてくる」2018/2・3記)
また、ノーベル賞受賞者、全てのクリエィターが創造性を発揮するために必要なものは9項目として、「勇気」、「挑戦」、「不屈の意志」、「組合せ」、「新たな視点」、「遊び心」、「偶然」、「努力」、「ひらめき」。これはデザイナーであり、クリエィターならば、誰もが大なり小なりもっているものだろう。そして、「運」の強さ・・・。        

●デザインは知識による議論を前提とする「ケース・メソッド」から、自らの現場の観察・体験を通じて課題を解決しようとする「フィールド・メソッド」を重視するのだという。自らの「眼」であり、「手」を使っての体験の重要性は、人間が生物体としての感性を育むためには必要不可欠なことだ。人間としての精細な思考と発想を育むためのデザイン演習と同じものだろう。が、最近のデザイン思考は、必ずしもデザイン的な成果を求めるのみではなく言葉に求めることもある。その広がりには目標が希薄化するのではとも懸念されることだ。しかし、思考する生物体としての行動であり体験を持たなければ、デザイン力としての確信、発想の「ひらめき→勘の冴え」を持つことは出来ないのだろうと思っている。科学者による成果の根拠となるものは、日々の実験であり、その繰り返しの結果として得られるものでもあるからだ。

●また、日本人の受賞者が・・・。本庶佑 京都大学特別教授が2018年度ノーベル生理学・医学賞を受賞。がん治療の新たな道を切り開いたのだ。米テキサス大学のジェームズ・アリソン教授の受賞が決まった。人間にはもともと病気を攻撃する「免疫力」が備わっているが、がん細胞は免疫の攻撃をたくみにかいくぐって成長し、人間の生命をおびやかす。本庶教授の研究グループは、がん細胞が免疫の働きにブレーキをかける仕組みを解明。この研究成果を基に開発された新しいがん治療薬は、ブレーキを解除することで免疫力(がんを攻撃する力)を活性化させる。2002年ノーベル平和賞を受賞したジミー・カーター元大統領(94歳)は‵15年にこの治療を受けていたが、最近の検査ではがんが見つからないほどに回復しているのだとか。

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