コラム:183 世界のインフラ・デザインなど
前回のコラムでも「パリ」に触れた。画家のメッカ―パリとかき、花の都パリとも言われる魅力あふれる都市でもある。ナポレオン3世の構想を基に整備されたパリの街は「世界の首都」とも呼ばれ、フランス国内にとどまらず各国における都市建設の手本ともされている。
ところで昨年、そんなパリ市が公衆トイレの増設を発表した。2015年に発生したパリ同時多発テロの影響は観光客を大幅に減少させており、せめて旅行者に不満の多いトイレ問題を解消して、パリの観光産業を回復させようというものだ。今後はパリ市内の200余箇所で美しいトイレが見られるようになるだろうと。
その一つの試みだろうか?「ユリトロトワール」(フランスの小便器を意味する「ユリノワール」と歩道「トロトワール」を合成した名称)の設置は。優雅なイメージだが赤い箱に乾燥加工したわらを詰め込んで尿と臭気を吸収させ、上部プランターの植物、公園や庭園などの堆肥として使用する立小便対策としての専用便器だ。路上に設置するが配管や設置の工事を要せず経済的でありエコなのだと。パリ市の中心、発祥の地ともいわれるセーヌ川の中州はシテ島とサンルイ島。有名なノートルダム寺院はシテ島にあるが、この「モノ」はサンルイ島の住宅街に設置されていた。
テレビ・レポーターの映像を見るとセーヌ川を見下ろしながら用を足す者には壮観なのだろうと思うが・・・小心者の私などにはその勇気はない。なにしろ、対岸や航行する観光船からも眺められ、とくに夜の河畔の小便小僧は、そこ、ここに抱擁する男女と同じナイト・クルーズのサーチライトの標的にもなり、話題の観光名所になりかねないのだ。
なにより問題なのは囲いもなく、その部分だけが隠されていても立ち姿は丸見えなのだ!
パリ市では立小便が問題になっている場所5カ所にも設置を予定、「何もしなければ男は路上で立小便をする」と。それでも、公共の景観を損なうものではとパリ市民の顰蹙(ひんしゅく)をかっており、女性団体の関係者には「性差別だ」と撤去を求められている。(その後、市民などの要求に応えて他の場所に移されたのだと聞く) 

ところで先日、テレビで初めてこのニュースを聞き、現地、男性レポーターの映像を見た。若い女性アナウンサーは立小便(たて‐しょうべん)と繰り返し原稿を読んで違和感を持たなかったようだ。多分、若い女性にとっては聞き慣れないフレーズだったのだろう。もはや我が国でのトイレ問題は諸外国とは異次元の状態になりつつあるからだ。それでも、昭和の末期頃までは大人や子供の「タチシヨンベン」は、人目が少ない植え込み、立木や塀などでもよく見かけていたものだ。良き時代であったというのだろうが非衛生的、その臭気がまたそのことを促すブロークンウィンドウズ現象に・・・。我が国、生活環境の近代化にも「トイレ問題」があった。
当時の駅や街路、公園、広場など人目につかない場所、植え込みなどの陰に目立たぬようにと設置されていたものだった。とにかく汚い!臭い!卑猥な落書き!など犯罪が起きやすい危険な場所でもあった。いささか躊躇したくなるようなテーマだった。
老若男女を問わず、車いす使用者にとっても「清潔」で「美しく」、「快適なサービス」を提供してこそ地域、市町村や企業の「イメージアップにつながるもの」と働きかけたことが、我が国のトイレ事情を一変させていた!「トイレ評価のランキング表」も意識を喚起するものとして効果あったようだ。著名な建築家がトイレの設計を依頼されていたと聞き、女性用トイレがイメージを一新して清潔で、快適を競う空間に代わってもいた。その後の「ウオシュレット」の開発、普及はパブリック空間に導入され、清潔なトイレは「お店を選ぶ選択肢の1つ」とも言われるようになっていた。「トイレ」と「駐車場」、そして、その「地域情報の発信」3点をコアーとした「道に駅を!」プロジェクトも、ほぼ同時期に進行していた。「道の駅」はいま、全国区となり地域農産物の発信・販売にも貢献するものになっていた。また、ユニバーサルデザイン・トイレとしては、高齢者、車いす者の便利性と回転式ドァーは非利用時には、常時、全開状態におき、密室の落書きや犯罪防止を考えたものだった。当時、横浜の山下公園に試験的に設置されていた。我が国のインフラは糞尿(人間・動物など)、生ゴミ、金属・プラスチックゴミなどのリサイクル問題など。
私もデザインを包括する生活環境プロジェクト、様々な異業種の産官学のプロジェクトのテーマに取り組む一方では、大学における実習テーマとしても共に研鑽していたことになる。学生諸君のグループワークは現状調査・分析、グループ報告を経て、トイレ問題のユニークな提案を見る楽しさは今も記憶にある。
いままた無作為に生産された便利さゆえのプラスチック製品が、早急に解決されねばならない環境問題ともなっているようだ!                 (2018/9・5記)
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メモ:
●住宅設備機器のリクシル=LIXILは、ユニセフ¬=UNICEFとパートナーシップを締結し、発展途上国の人々の命を救うために、同社開発の簡易トイレ「SATO」を普及させると。「SATO」は数百円で、病気を媒介する虫や異臭を封じ込めるふたが自動開閉する機能を備えている。
いまだに、最低限のトイレ(衛生設備)すら無い人々が全世界で凡そ23億人、8億9200万人はプライドもなく危険にさらされた野外での排せつを余儀なくされていると。(7月26日 AFP)
●いまは、日本に来る外国人旅行者の多くが驚き、感動するものに公衆便所があるのだという。
特にウオシュレットは不思議な装置でもあるらしい。「キレイ」、「清潔」、「快適」といったトイレニーズは万国共通のもの、その体感が多いほど良さを知ってもらうチャンスでもあるのだとか。世界的にウォシュレットの普及を目指すのは開発企業のTOTOだ。全社を挙げて世界各地域への本格的な普及に乗り出している。東京五輪と重なる次期経営計画ではさらなる拡大を戦略図として描いているのだとか。
我が国においてのウォシュレットは1980年に一般家庭に向けて販売を始め、生活の習慣を大きく変えたと言われている。海外では米国、中国、台湾、ドイツ、フランス、英国などでもウォシュレットを販売しており、急速な広がりを見せているのだとか。アッセンブル製品であるため、世界的な需要が拡大しても供給面での不安はないのだとか。

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