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デザイン関連雑感 パリ発信』

齊藤欣一 <日産自動車(株)シニアデザイナー> (S52年卒)
tireman@noos.fr

日産とルノーのアライアンスのひとつとして、ルノーデザインに派遣されパリに住む様になってあっという間に1年半が過ぎてしまいました、その間に21世紀になり、つい先日には、通貨がユーロへと、、、あらゆる物(過去)が大きく動いている現在、海外でのデザイン活動は非常に魅力に富んでいます

“パリは世界一の観光地” 何をいまさら!と、思うでしょう?

私は過去にプライベートを含め都合十数回のパリ滞在を経験して来ましたが、それらは最長でも2ヶ月のスケッチ出張でした、“旅行や出張と駐在は大違い!”“日本企業の海外駐在と現地企業での駐在は、根本的に違う”、このギャップに最初の3ヶ月は今までのデザイン活動ってなんだったんだ!!というぐらいの衝撃的な日々でした、観光や短期の調査出張で見るパリは過去の遺産やベールに包まれた表面のイメージだけでした

商業デザインの第1歩マーケット分析から始めてみても、今日の現実のフランスは世界外交の急転換、教育、人種、アルコールの諸問題、高国営化率からの脱却、重い税制、所得のギャップ、週35時間労働、先端技術開発の遅れ、旧式農業国、コンピューター化の遅れなど、噴出する問題は日本の比ではありません、より現実的な事象では無法化状態の交通ルール、サービスの存在しない商業、夏の長期バカンス、頻繁なゼネスト(鉄道はもちろん警察官からゲイまで、そしてそれら全てのストに抗議するストまである)これらを、政府、官僚と国民全員が、(別の見方をすれば未だに続くブルジョアとプロレタリアート)それぞれの価値観で生活しているのがフランスであり、その象徴がパリなのです

フランスの共和国制度は、一人一人が一単位。(国民全員が、共和して成り立っている構造を前提としている)これが客観的には個人主義と写るが、実際は各個人の個性は認め合い(無視し合い)、徹底した論議を重ねる、多くの場面で結論が出ない、日程遵守という感覚がない、でもここが根本はラテン民族のあかし。

さてここまで読んでくると、なんだ否定論ばかりじゃないか!と思われるでしょうが、それは、日本から、或いは日本人としての価値観での判断と言えるでしょう
(もちろん、その価値観や判断を否定するつもりはありません)

ここで伝えたい雑感は、こんな状態の現実でありながら、世界外交では米英に一目をおかれているし、フランス資本の注入は全世界で積極展開しているし、過去の植民地でもしっかり利益を作っているし、建築、車、ファッション、スポーツ、あらゆる分野でもプロデュースを行っているし(この過去20年建築のほとんどは、フランス人以外だが)、GNPのほぼ1割は観光収入だし、世界一般のイメージは、やっぱり“花の都パリ”なのだという周辺、周囲をデザイン出来る底力です

オリジナリティや新しさを求めるもう一つの背景として、伝統、歴史に対するスタンスの違いがあります
パリに限らず、フランスの多くの建物は築後40年以上300年などというものばかりです 特にパリでは主要地域において多くの規制を設けてその保存に努めていますし、
家具などに関しても同様にアンティークなものを所有する事が高級でステイタスであるという考え方が一般的です(もちろん抜け道はありますので、シャンゼリゼなどには、親建築も多いですが)
又、フランス人との会話の中でよく語られるのが、パリはパリであって真のフランスではない!というフレーズです、フランスは、元来大農業国でそれを背景に一般的には、家族やその関係も非常に保守的です、しかしこの伝統文化もこの20年の間に急激に変化しつつありますが、これらに対する反動を持ち前のボールドでドラスティックなラテン感覚で表現することが、客観的に強い記号性や高い差別性へと昇華しているようです

さて振返って、日本の現状はどうでしょう?

常にバランス重視の場当たり的な外交( 敵も味方もつくらない )、イメージの残らない援助、(感謝も尊敬も聞こえてこない)国際化の中で消滅しかねない歴史や過去、ルールやたてまえにあえぐ日々、猟奇、異常事件の多発、慢性不況に勤勉に対応する企業、衣食住基本費用は世界一、お互いゆずりあってストレスを貯める、あらゆるルールで自らの首をしめる、均一、平均化が及ぼす没個性、レジャーは費用も時間もない、などなど、何故か空回り、逆回り、が多いですよね。

日本、日本人は(もちろん私を、含めて) 、つい2,3年前までは、あまりにも無菌、温室状態だったし器用過ぎた様です、また建築様式や戦争、地震などが大きな背景となって、時間の長さ、歴史、伝統などが根付かず、表面だけの変化、新しさや外から借りてくることに振返りも無かったような気がします、上位に目標があった過去はそれでよかったのですが、日本の個性を問われてから10年ずっと低迷の現在、社会の全ての事柄が、リセットされようとしています、デザイン教育の点でも、実務としてのデザインでもフィロソフィー、コンセプト、イメージといった、根本の部分は、一度決定したら絶対変えない、変えられないから徹底的な調査、分析の元に行う、責任と管理を、明確にする、インターナショナルの中のナショナリズム無くして、真のオリジナリティは、生まれない、物を生み出す創造行為とは、あらゆる文化の深い洞察や尊重の後に行うべき、個と組織(会社、国家)のバランスを深く探求することで、個性と没個性、マイナーとメジャー、ミニマルとマス、ハレとケなどの境界線が見えてくる、自らの強いオリジナリティなくして協調も信頼も生まれない、あらゆる事柄の90%ぐらいが、日本とは正反対のこの地で、“そんなこんな”が、はっきりと見える、確認できるというのが一番の収穫であり雑感のまとめです

フランスは、過去5年前から (政治、経済、内政全ての点で問題続出の中での一つの結論)英語教育、コンピューター教育に非常に力を入れています、欧州統合に伴う国際化の中での生き残りやドイツとのリーダー争いの為に一大転換をしています(かつては、国土も民族も語学も全てが世界一と自負していた)(アメリカに対抗する為の欧州統合の中で、逆に各国は独自性を再開発、再発見している)フランスは、今までずっと続けてきた、結論の出にくい論争(論議の質、幅が重要)、個性の尊重、秀才重視の教育システムなどはそのままですから、これからが自他ともに認める国際人育成になります
主観性と客観性のバランス、フランス圏から国際圏への転換など、、、多くの過去が、変化しつつあります

改めて日本とは、日本におけるデザインとはなんぞや?と考えてみると、短期開発原価管理、高品質、もてなし、改良、勤勉など、商品づくりは他の国は絶対追いつけません、しかしこれからの“初めての国際化”の中で独自の個性の発見や、3から5カ国の語学力(日英は、あたりまえ)、あらゆる意味でのスタミナを身につけることが、存在感のある国づくり、ものづくりに近づけるラストステップ(どう楽観視しても、もう後は無い)だと思う今日この頃です

追伸; 
ここからは、ほんとの意味での雑感を!
まずは、季節などに触れることにします、11月から3月中旬までは、暗く寒い冬(朝9時から午後4時半までが日照、気温朝0度昼5度平均、但しパリは雪はほとんどない)、4月から5月末までが春(郊外は、菜の花畑1色です)、6月から8月末が夏(気温は日本並になったりするが、湿度がない)、9月と10月が秋(寒く、暗い冬は、うつ病になる人が多い、これがいわゆるアンニュイのひとつ、そんな背景もあり夏のバカンスだけの為に生きる人も多い)

次は、車関連の情報を、、、

パリの人口は東京の1/2なのに自動車の事故率は2倍です、つまり4倍の事故率です、前述のように交通ルールは存在しません、ポリスでさえ皆自分の思いどうりの運転です、でも、この生活の基本中の基本のような動作は、自らの主張、個性、自己責任などの鍛錬には、大変重要な気がしてなりません
(これでもイタリア、スペインよりましなので、ほんとにラテンはすごいです かつて、F−1が、ドライバーオリエンテッドだった時代にラテン系が強かったのも理解出来る)
又、パリはほぼ直径10kmの楕円状(ほぼ山手線の内側と同じ)ですが、そこから1歩出ると交通量は日本の北海道並、リミット110kmから130kmの無料高速(一部は有料ですが、安い)で、“150キロ郊外なら一時間で到着”というドライブを楽しめます、ドーバー、ベルギーに3時間、ドイツ、スイスに4時間、南フランス、スペインに6時間など、ほとんど平らな田園風景ですが忘れていた車の本来の意味を再確認出来ています
ナビシステムの重要性の再認識もいい経験です(フランス人の知らない名所旧跡の開拓、及びその自慢は、良いコミュニケーションツールです)
基本的に私はこの20年の間に運転という行為に苦痛を感じる人間になっていましたが、その私がナビという味方をつけて日本の3倍以上の距離をこなしています
ちなみに、日本のナビ装着率ははっきり知りませんがフランスでは、多分ATミッションと同じぐらいの10%以下だと思われます(ここでも日本と全く逆の構図が、あらわれます)
この5年ほどの間に、いわゆるフランスらしい古い車たちは消えうせてしまいました 環境改善の為に、新車購入優遇制度が発令され一気に乗り替えられた為です
もちろんバンパーをぶつけての縦列駐車は変わりませんが、それも自分の車がきれいだったら自然に減るし、パリ以外ではスペースは十分あります
(以外にもフランスの国土は、日本の1.5倍でしかありません、しかし7割以上が平坦地で人口は1/2ですから余裕は充分です、そんな点からも“なんで、あのパリなんかに住むんだ!”というフランス人の気持ちは理解出来ます
ガソリンと軽油はほぼ同価格で、日本のプレミア並の価格ですので若干高めです、車の価格もガソリン車、ディーゼル車共同等ですが、ディーゼル比率は非常に高いです   最大の理由は燃費にあります、一時は消滅の危機さえ囁かれたディーゼルは、排ガスのクリーンさも加わり、新開発のブロックがどんどんリリースされています
(それでもアウディやアルファのディーゼルは結構ミスマッチ感がありますが。)

もう少しデザイン関連の情報を、、、最新デザイン最新トレンドに関しては、質、量ともに東京は世界一だと改めて思います、東京ほどいや日本ほど“ふところ”が大きな所はないようです、前述の背景からもわかるとうり、外からのものはなんでも受け入れるという姿勢によります、もちろんシャンゼリゼ、サンジェルマンなどにアンテナショップやマガザンは多く進出しているのですが、そのほとんどはフランス以外ですし、実は、日本だったりする物も多いし、ファッションのパリコレも話題はいつも海外ブランドです(日本のファッション誌は、片寄りが強い 今やフランスの伝統ブランドの大半の主要顧客は、中東、アジアそして日本です)

食文化について、、、

私は、ずっと以前からデザインと食文化の関連の重要性を主張しているのですが。(食べる事としゃべる事は、フランス人にはもっとも重要な事柄)
三星付き伝統フレンチは、今やあやうい(高カロリー、味の濃さ、ボリュームの多さ、高額サービス料などで、主要客は、日、米、英、独の観光客及び経費組)、シェフの世代交代でヌーベルクイジ−ヌが現代の主流になる勢い、一つ星やミシュラン推薦が多い(ごま油、醤油、エスニック香辛料多用、ボリュームは、少なめ)
フランスの子供も、今ややっぱりマック(10年ほど前までは、メジャーになれなかった様だが、政治の転換、一定の品質、価格、おまけなどで浸透、ビッグマックのセットで5ユーロぐらいなので日本より若干安いぐらい?)
マックが次世代をダメにしていると常々思っているのは、私だけ?
フランスで(イギリスも) 、スパゲッティは食べない様にしましょう(うどんです)
かつての統治国ベトナムや韓国料理も、日本よりも全然本場の味に近いし安いです
パンは、湿度と小麦粉の関係でやはりおいしいです、又、いわゆるバゲットの世界は奥が深いです
野菜は、品種改良がほとんど行われていない様で野趣に富んでいます(かたちは、ともかく味、甘味が非常に濃い、但し、水分量は、低い)
くだものは、かつての統治国の関係もあり非常に豊富ですが、質やみずみずしさの点
では日本の圧勝です
肉は、牛、豚、羊、鶏、鴨、七面鳥など、もちろんジビエの時期には、いのしし、うさぎ、うずら、きじ、かえる、などが、マルシェに並びます
魚は、スペイン、イタリアよりも多い感じで非常に豊富です、まぐろ、さば、あじ
いわし、たこ、いか、うに、あわびなど、日本の一般的なスーパーよりもよほど多数の
種類が存在します しゃこやしらうおまであります
牡蠣、ムール貝、オマールえび、舌平目は、当たり前メニューです
世界三大珍味の“本物”のフォアグラは、星付きレストランや高級ブラッセリ−の前菜やメインそしてパリ4大デパート(グランマガザン)の食品売り場などに並んでいますが、
安くても日本の1/2ぐらいですので、一般のフランス人はクリスマス(ノエルという)
か勝負イベントに限られるようです
トリュフにいたっては、南西フランスにそのスペシャルコースが楽しめる地域がありますが、一般には料理の鉄人ほど大量には使えないし食べれないようです

フランスでは本当に水より安いワインが存在しますが、その価格は日本の1/3といったところでしょうか。いわゆるボジョレーヌーボーは、フランス人は積極的には飲みません、ボジョレー後に普段飲む分は2,3年ものを2,3ダース単位をスーパーで購入するのが一般的です( ワインの年代ものやシャンパンは何かのイベントの折とのこと、ビールはアペリテェフとして一般的ですが、ウイスキーはイギリス文化ですので当然品揃えも少ないです)

最後は住宅事情を、、、

パリには一戸建てはほとんど存在しません、フランス人4人家族の平均的アパートは、70平米と日本並です賃貸であれば、7から15万円とこれも大差がありません、その価格差もパリ7、15、16区を筆頭に19,20区が、一番安い(同じに危険)地区になっています
パリのアパートは購入しても当然内装のリフォームに限られますが、7割は“IKEA”
(家具)と“DARTY”(電化品)と“BHVモ”(小物雑貨)で揃え高い比率で週末やバカンスでのDIYが多いようです
パリを1歩出さえすれば、より広いスペースのアパート(しかも新しい)や一戸建てが存在しますし販売価格も日本の半分ぐらいです
しかし、平均年収の税引き後のトータルは日本の3/5ですから、家庭の事情はほぼ同等の様です
一つだけヨーロッパで優れたシステムは、あくまでも中より上のアパートですがアパート全体に温水パイプが回っていますので、冬(外気は0度以下)でも室内はTシャツ一枚で過ごせます、このシステムはできれば日本でも是非導入したい物だと思います

以上

御依頼いただいてから短時間に思いつくまま記しましたので、乱文や誤解を招く表現など多いかと思いますが、ほんの一部でも参考になれば幸いです

                       2002年1月15日 パリにて