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『ユニバーサル・デザイン:アメリカ企業動向』Vol.2

永木康人 NECデザイン USA(S 58年度卒)

Vol.2

2. 各企業の動向
2.1. 各企業の動向についての概要
2.2. IBM
2.3. Microsoft
2.4. Sun Microsystems
2.5. Apple Computer
2.6. Dell Computer
2.7. HP(ヒューレット・パッカード)社
2.8. まとめ

2. 各企業の動向

2.1. 各企業の動向についての概要

ウィスコンシン・マディソン工科大学にある トレース・センターは、ユニバーサル・デザイン研究で最もよく知られている研究機関である。同センターは先頃企業がどの程度ユニバーサル・デザインを受容しているかを3年間にわたって調査した。アメリカ企業の動向について、興味深い結果が出ているので内容を抜粋したい。
同調査は、企業がユニバーサル・デザインを受容しているとすれば何がその契機になったか、していなければ何が障害になっているかを浮かび上がらせることを目的として行われている。
同調査では、まず企業の規模によってユニバーサル・デザインへの取り組みが異なることを指摘している。大企業になればなるほど、経営陣上層部主導による取り組みが増え、それによって異なった部門を横断したチームがユニバーサル・デザインをデザイン・プロセスの中へ統合している比率が高いという。他方、企業の規模が小さいと、社員の中の有志が集まってユニバーサル・デザインを推進していく場合が多い。後者の場合は、組織化されていないためによりフラットなチームで作業が進められ、時によっては前者よりやる気に満ちている。調査は、「ユニバーサル・デザインが企業内に浸透していくために企業規模の大小は問題ではないが、そのスタイルには企業規模の差が現れる」としている。
現在、企業がユニバーサル・デザインをデザイン・プロセスに統合するにあたってのコスト統計を詳細に調査したものはない。ユニバーサル・デザインの要素をすでに完成した製品スペックにレトロフィットするようなかたちで製品に組み込むことと、最初から統合することのコスト差などの数字も、企業が知りたがっていながらなかなか入手できないものである。同調査は、企業外のユニバーサル・デザインの推進者たちは「コスト・ゼロ」で実現できるような語り方をするが、実際にはユニバーサル・デザイン統合によってコストや人手が余分にかかることを企業は実証しているという。それはリソースの面でのコストであると同時に、生産面でのコスト増でもあり、さらに難しいのはそれを市場でどのように正当化させるかだという。つまり消費者にとって、価格の上乗せが十分に納得のいくものにできるかどうかは大きな問題で、たいていの企業はここで深刻な壁にぶちあたっているとしている。
企業はまた、ユニバーサル・デザインに関する研究に大きな関心を抱いており、研究結果やマーケット・リサーチ結果などがより簡単に入手できるようになることを望んでいる。また自ら、そうした研究組織と協力して研究、調査を行うことに乗り気であるという。
同調査はまた、企業の間でユニバーサル・デザインに積極的なところは何がそのモチベーションになっているのか、反対に消極的なところは何が障害になっているのかをリストアップしている。モチベーションは、競合他社の動きに影響された、経営上層部の判断、社内の旗ふり役の存在、公共機関からの大規模な受注など、さまざまな項目が挙げられているが、障害項目にも参考になる点が多いので、下に主なものをリストアップしておく:

・ ユーザーの期待に添えず、訴訟問題に発展することの恐れ
・ ツールの再整備、デザイナーの再教育にかかるコスト増への恐れ
・ 市場に製品を出すまでの時間の遅れに対する恐れ
・ ユニバーサル・デザインが単に障害者のためのデザインであるとの誤解が、広く経営上
 層部にあり、市場がニッチでしかないと判断する間違い
・ 製品がすでに成熟しており、それをユニバーサル・デザイン向けに改定することのコス
 ト増への恐れ
・ 製品開発が社内で分散しており、一貫したポリシーとして打ち立てられない社内の組織
 構造
・ 反対に、製品開発が中央集権的に行われており、ユニバーサル・デザインへの改訂を含
 め何らかの変更を加えるには硬化し過ぎているという組織構造
・ 企業が巨大で、ユニバーサル・デザインを受容するという変更が多岐の部門に渡ってい
 て複雑なプロセスになる
・ 反対に、企業が小規模すぎて、変更を受け入れるだけの余裕がない

こうした状況を改善し、ユニバーサル・デザインを社内の開発プロセスの中に根付かせるには、さまざまな方向からアプローチする必要があると、同調査はまとめている。主な項目は以下の通り:

・ 種々のメディアを通じて、社内の経営上層部、製品開発グループにユニバーサル・デザ
 インの考え方を広める
・ 社内の取り組みについてのガイドライン、戦略、プロセス評価方法、デザイン・ツール
 などを準備する
・ ユニバーサル・デザインの実態、ニーズ、将来の需要などについての統計、数字を集め
 て分析する
・ 障害者グループのサポートを得る/消費者団体の圧力を計るなど、外部の組織、その
 動きを製品開発に盛り込む

2.2. IBM

IBMは、以前から障害者のためのデザインに注力してきた企業として知られている。同社は2000年1月、それまで各国でアクセシビリティ&アシスティブ・テクノロジーに関わってきた研究者/開発者を、アクセシビリティ・センターという新開発機関の中に統合し、グローバルな組織として再出発させた。同センターはIBMリサーチの傘下に置かれている。同センターと同時に、アクセシビリティ研究所も発足した。ここでは、IBM内の技術をアクセシビリティ・センターにトランスファーすることを目的としており、社内での無駄のない技術転用を推進している。
アクセシビリティ・センターでは、インターネット、イントラネットを含むIBMの幅広いプラットフォーム上で、同社のテクノロジーがアシスティブになるような開発を進めると同時に、ツール開発を行い、アクセシブルなアプリケーションやミドルウェアがIBM製品に統合されやすくするよう努めている。製品がその開発の最も初期段階において、アクセシビリティを盛り込んでいくよう、効率的、効果的なアプローチを成立させることが、同センターの究極の目的である。同センターは、他社との製品開発提携を含むさまざまな方法でソリューションを探っていく方法をとり、同時にすでに世に出された製品については、その開発をさらに進めていくという。
同センターで行われている開発例を挙げよう。
IBMは、障害の種類に対応して、ハードウェア、ソフトウェア両領域で製品も開発、販売している。同社が開発する対象となっているのは、視覚障害、身体障害、言語障害、認知障害/難読症、子供の学習障害である。
視覚障害については、ホームページ・リーダー(ウェブページを音声にして読み上げるブラウザー)、セルフボイシング・キット(JAVAアプリケーションに音声インターフェイスなど障害者向けのフィーチャーを付け加えることができる、開発者向けのキット)、オープンブック・ルビー版(プリント・メディアをスキャンしてデジタルデータ化し、読んだり編集しやすくしたりするソフトで、弱視者のための拡大鏡ソフトや音声ソフトも組み込まれている)といったソフトウェアを開発している。
からだや手の動きに障害がある障害者のためには、通常のインプット・デバイス(キーボードやマウス)に改訂を加えるソフトであるアクセスDOSがある。これは、キーを一定時間抑えていないと認識しないとか、震えのために連続してキーを押してしまっても1回と認識するなどの機能が選べる。またビアボイスは音声認識ソフトで声を文字に変換するもので、健常者向けにも発売されている。さらにドン・ジョンストン社との共同開発で、大型キーボード、オンスクリーン・キーボード、知能障害児のための論理スキル育成のためのサイン型キーボードなどもある。
聴覚障害者のためには、音声を絵にして示すスピーチビューアーがある。これは、聴覚障害者が自分の発声を視覚的に確認するためのソフトウェアで、自分では確認できない発音や発声を絵やグラフで表現するもの。
認知障害/難読症のためのソフトウェアとしては、インスピレーション社との共同開発によるインスピレーションという製品がある。これは論理をダイヤグラムやアウトラインに変換するもので、文章がうまく追えなくても図式化された概念でその内容を理解できるようにするものである。またライトアウト・ラウドという製品は、単語を入力するごとに音声でそれを読み上げ、文章構成を進めやすくする。同様に学習障害児のためには、ことばの構成、文脈などをひとつずつ習得しながら言語能力を高めるためのソフトウェア、リバーディープをリバーディープ・インタラクティブラーニング社と共同開発している。
こうして見てみると、IBMのアクセシビリティ製品は、ビアボイスのように健常者もごく普通のソフトウェアとして兼用できるもの、子供が発育段階の学習に使えるものが含まれているほか、すでに存在しているソフトウェアに搭載することによってアクセシビリティを増すといったソフトウェアのアプローチや、また開発者が楽に使えるアクシセシビリティのためのツールを提供する、などの特徴がある。まったくのゼロから開発するばかりが、アクセシビリティやユニバーサル・デザインのアプローチではない、ということを教えてくれるものだろう。
アクセシビリティ研究所は、IBM内で行われている先端技術研究の中からアクセシビリティに役立つものを探し出す役割も果たしている。最近は、得にウェブサイトやインターネットを障害者がハンディなく使えるようなツールを中心に模索している。たとえば、コンピュータビジョン・グループで研究が行われている視線、音声、ジェスチャーなどによる入力方法などが挙げられよう。ここでは、カーソル、ボタン、スクロールバーなど、健常者が複数の方法で操作しているものを、単純で直観的な入力方法に絞り込もうという研究を進めている。
「こうした研究は実際のオフィスに普及するまでにはまだまだ時間がかかるが、その間に障害者のために役立つ技術として部分的に世に出していくことができる」と、同グループのある研究者は語っている。
また、テキスト分析と言語エンジニアリング・グループで進められている要約技術は、膨大な文章を読むことを仕事としている人々のために研究されているもので、現在市場で販売されている製品よりさらに応用分析を用いて利用価値の高い要約ツールとして開発、製品化することを目的としている。これを部分的に、認知障害/難読症、あるいは視覚障害のある人々に応用することも可能だという。
「コンピュータと行動理論、社会政策の交錯する地点で何が起こっているかを探るのが我々の仕事。世の中にあまねくコンピューティングを普及させようというパーベイシブ・コンピューティングとユニバーサル・アクシシビリティとは相互補完関係にあり、ゴールとして目指すところは同じだ」と、同研究所では語っている。
アクセシビリティ・センターのウェブサイトには、ソフトウェア、ウェブ、ハードウェア、周辺機器などにおけるアクセシビリティの基準や、連邦政府が定めるアクセシビリティ基準が掲載されている。これは企業や政府機関などで障害者の採用に関わっている人事部や機材調達部などが、購入するIT機器を評価する基準としても利用できるもので、ある程度公的な目的にも供与されるものとして運営されているのがわかる。

2.3. Microsoft

マイクロソフトは、2000年6月にユニバーサル・デザインの提唱者であるロン・メイスの遺志を継いで設けられた「21世紀のためのデザイン賞」で優れたユニバーサル・デザインを遂行する企業として、その賞を受賞した。マイクロソフト内には、アクセシビリティ&ディサビリティ・グループがあるが、それが組織される以前、すでに14年前からオフィス、ウィンドウズ、エンカルタ・マルチメディア・エンサイクロペディア、インターネット・エクスプローラーなどの同社製品でアクセシビリティが確保されるよう、社内の開発関係者と社外のアクセシビリティ活動家などとの連繋をはかってきたという。通常のウィンドウズにはすでにアクセシビリティ・ウィザードという機能が組み込まれていて、文字を拡大する、スクリーンの色を変える、オンスクリーン・キーボードに切り替えるなどの設定が可能になっている。
マイクロソフトが、アクセシビリティ問題を公に全面的に取り組むようになったのは、ウィンドウズ以降のことだ。GUI(グラフィック・ユーザーインターフェイス)を多用するOSへの移行が、多くの障害者ユーザーに対して壁を作り上げたことにならないよう配慮した結果とされている。また1997年に急いでリリースされたインターネット・エクスプローラー4.0が、前バージョンよりもアクセシビリティのフィーチャーが少なかったために、障害者のコミュニティーから大きな非難を浴びた。この大きなインパクトをマイクロソフト社が実感しての結果ともされている。
1998年2月、同社はアクセシビリティのための専門部門アクセシビリティ&ディサビリティ・グループを任命した。それまで社内でアクセシビリティの担当者とされていたグレッグ・ローニーがアクセシビリティ・ディレクターに使命された。ローニーはその後、さらに多人数からなる中枢部門をつくり、製品開発の初期段階からアクセシビリティのための機能を盛り込み、さらに外部の障害者などから情報を得やすくするような組織づくりに努めてきた。同氏は、そうした中枢的な部署なしには、ユニバーサル・デザイン、アクセシビリティ・デザインは実現できないと述べている。
企業のアクセシビリティへの取り組みには、中央組織が企業全体の開発プロセスを見ようとする方法と、さまざま部署にアクセシビリティの担当者が分散していて、場合によっては単独の責任者が不在なために本来あるべきインパクトがないままになってしまう方法がある。マイクロソフトのアクセシビリティへのアプローチは「ハイブリッド型」であると、ローニーは説明する。
「中央にはアクセシビリティ&ディサビリティ・グループがあって、ここが社内、業界を通してリーダーシップを担う。新しい技術を生み出したり、社内のコーディネートを行ったり、外部の障害者コミュニティーとの連繋を計る。そして同時に、社内の多部門にわたって、アクセシビリティを自分たちの仕事の中で実現してもらえるように説いて回る」。
アクセシビリティ&ディサビリティ・グループは、現在50人弱のチームになっている。
マイクロソフトのアクセシビリティへの具体的なアプローチは、多岐に及んでいる。中でも市場での同社の大きな占有率をテコにしたいくつかのアプローチは特筆に値する。
ひとつは、SAMI(同期アクセシブル・メディア・インターチェンジ)と言われるスタンダードの開発で、これによってアプリケーションやウェブサイトにクローズキャプション(文字情報)が入れやすくなる。またウィンドウズ・ロゴ・プログラムは、ウィンドウズのロゴを製品に用いることを望む企業は、マイクロソフトのアクセシビリティ基準を満たしていなければならないというもので、殊に連邦政府関連機関による購入ガイドライン制定後は、効果的だと言う。さらにマイクロソフト・アクティブ・アクセシビリティは、アプリケーションの開発会社がアクセシビリティ機器との互換性を犠牲にすることなくユーザー・インターフェイスや実装を変えることができるツールである。
製品については、ウィンドウズ、オフィス、インターネット・エクスプローラーなどの同社のソフトウェアで、さまざまなアクセシビリティのフィーチャーを設定できることが中心となっているが、充実しているのは、ウェブサイトとの連繋である。同社のアクセシビリティ・サイトは、「みんなのためのアクセシビリティ」と謳って、障害者、開発者、機材購入担当者、ジャーナリストらがさまざまな情報を引き出せるように作られている。
各ソフトウェアでフィーチャーを変える際の方法は詳細に渡って項目別に説明されている他、障害者がウィンドウズと互換性のあるアクセシビリティ・デバイスをサーチできるページ、開発者がマイクロソフトのアクセシビリティ基準を細かに参照できる情報ページなど、縦横に情報が満載されている。
こうした技術、ウェブサイトと並んで、マイクロソフトが行っているのは、オフサイトのプロモーションである。同社はすでに数年前から、アクセシビリティ技術開発、障害者のための社会貢献に関わる会社や研究所、非営利機関に補助金やソフトウェア供与を通じて、アクセシビリティへの同社のアプローチを広めている。また、障害者たちの集まりやキャンプなどにコンピュータやソフトウェアを提供して、障害者の活動をサポートすると同時に、障害者コミュニティーとのつながりを強化しているのである。
アクセシビリティ、ユニバーサル・デザインへの取り組みを、単に技術や機材だけに限らず、かなり包括的に推進するマイクロソフト社のアプローチは、その影響力とも相まってかなり社会への浸透性が高いものと考えられる。

2.4. Sun Microsystems

2001年3月、サンマイクロシステムズは全米視覚障害者財団(AFB)からアクセス賞を授与された。これは同社がJAVAのプラットフォームで開発を行うエンジニアたちにアクセシビリティAPIを供給して、インターネット関連製品全体としてのアクセシビリティの向上に貢献したことを讃えるものだ。
同社はまた、ワークステーションやソラリスで走るデスクトップ製品に、さまざまなアクセシビリティ機器を接続することを容易にするよう努めてきたほか、運動神経の障害者、視覚障害者など、障害の種類に応じて製品が使いやすくなるような配慮を行っている。その中には、フリーウェアやオープンソース製品へ対応するものも含まれており、同社はコンピュータ関連企業の中でも積極的にユニバーサル・デザインを推進しているとしてよいだろう。
サンマイクロシステムズのアクセシビリティ戦略は、JAVAを中心にして展開されている。その理由は、今後コンピュータがユビキタスになるに連れて、人々はデスクトップだけでなく、PDAや街の中のキオスクなど、必ずしも大きなスクリーンやキーボードを入力ツールとしない機器に頼るようになるからだ。サンマイクロシステムズのアクセシビリティ・プログラムは、ガイドラインの設定、アクセシビリティ・ソリューションのための機能的な規定の設定、デベロッパーのためのツール開発、外部のアクセシビリティ関連組織、政府関連組織大学研究機関との連繋、共同研究などを行っている。
サンマイクロシステムズのアクセシビリティ・プログラムが始まったのは1991年。自ら身体に障害を持つエンジニアのアール・ジョンソンが中心となって組織された。現在のジョンソンの肩書は、アクセシビリティ・プログラム・オフィスのプログラム・マネージャーである。プログラム開始当時、メンバーはジョンソンひとり。アクセシビリティを必要とする消費者もまだ見えない頃だったが、ADAが1992年に施行されることが計画されていたために、それに対応するためにプログラムが組織されたわけだ。アクセシビリティにどう対応すればいいのかという、社内での疑問に答えるのが主な彼の仕事だったが、当時はアーキテクチャーやUIの開発ツールなどもアクセシビリティに対応していなかったため、すべてを後からレトロフィットさせなくてはならないという困難な状態が続いた。
その後JAVAの登場が、このプログラムにとっては光明をもたらすことになる。開発ゼロの状態からアクセシビリティを統合していくことができたからだ。アクセシビリティ・プログラムのメンバーと、JAVA開発チームとの共同作業によって、JAVAのアクセシビリティ・スタンダードが設定されたが、これはそれに対応する開発ツールによって製品として広がり、現在1億3000万以上のデスクトップに供給される大規模なものとなっている。同プログラムは、現在もJAVAの強みを生かしたアクセシビリティ戦略を進めている。
ジョンソンは、「開発ツールの中に、あらかじめアクセシビリティに対応するUIやフックが盛り込まれているために、アプリケーション開発においてアクセシビリティへの対応を最大限に効果的に実装することができた」のが成功の理由だとしている。つまり、開発プロセスの「一番初めに」アクセシビリティ対応のプログラムを統合することで、コストも時間も節約しながら効果的にアクセシビリティを実現できるわけだ。同プログラム・オフィスでは、同様のアプローチをJINIやGNOMEプロジェクトでもとっている。
ジョンソンは、今後の挑戦はソフトウェアのプラットフォーム、UIツールキット、アプリケーションの各層において、さらに特別なアクセシビリティを必要とする人々のためのアクセス機器の層も加えて、コンピュータやITを構成するすべての層において、開発の点でもユーザビリティの点でもアクセシビリティがスムーズにつながっていくことだとしている。そのためには、サンマイクロシステム側が、プラットフォームにそれを統合していくという大きな作業を引き受けることによって、デベロッパーたちにアクセシビリティの重要性を訴えていくという立場をとるという。またこれは決してひとつの企業内部だけでは到達できない目標だと、ジョンソンは強調する。
サンマイクロシステムズは、今後ますます重要になるユビキタスIT機器時代に備えて、特にソフトウェアにおけるアクセシビリティのインフラづくりをしていると言ってもいいだろう。アクセシビリティ、ユニバーサル・デザインは、できるだけ早い時期にそのスタンダードや共通言語が確立されることが望ましいが、そのためには関連機関、各企業がその独自性を生かして進めていくことが最も効果的だろう。コンピュータ業界の中におけるアクセシビリティに関する役割分担があるとすれば、サンマイクロシステムズはもっとも同社にふさわしい役割を選択していると思われる。

2.5. Apple Computer

アップル・コンピュータは、同社が創設されて間もない1985年からアクセシビリティの推進を行っているとしている。アップルはコンピュータ・メーカーの中では珍しく、ハードウェアとOS両方を手掛けるメーカーである。その意味では、市場シェアは小さくとも、一貫したアクセシビリティ、ユニバーサル・デザインの開発を行える立場にあることになる。同社のアプローチのありかたは、「People with Special Needs」と題されたウェブサイトから推し量ることができる。
アクセシビリティに関するアップルのウェブサイトは、デベロッパー向けと一般ユーザーの中の障害者に向けたものとのふたつがある。
デベロッパー向けのアクセシビリティ・ガイドラインは、ヒューマンインターフェイスのファンダメンタルズを記した箇所に位置付けられ、デザインのごく基本的な要素として盛り込まれている。アップルのヒューマンインターフェイス・ガイドラインは、操作性のルールからフォントのつくりにいたるまでかなり詳細にわたっている。その中にアクセシビリティへのガイドラインをすっかりと統合したかたちだ。
ここでは、視覚障害、聴覚障害、言語/認知障害、身体的に動きに制限があるなどの障害、あるいはスクリーンの点滅などによってひきつけを起こすなどの感覚障害などに対応した処置がそれぞれ指示されており、アップルの周辺機器、あるいはマックOSを利用するデベロッパーが、こうしたガイドラインを参考にしてアップル・コンピュータの世界をつくりあげていくことが推進されている。
アップル・コンピュータは、すでにそのOSの中にアクセシビリティに対応するさまざまなプラットフォームを盛り込んでいる。アクセシビリティに応じるさまざまな機能は、あらかじめOSに搭載されているものと、後述する障害者向けのサイトから簡単にダウンロードして追加できるものとがある。たとえば、クロースビューは、視覚障害者のための拡大鏡の機能や、バックグラウンドと文字の白黒を入れ替えたりできる機能が盛り込まれている。またマウス、キーボードなどの入力を他の方法で行える機能(マウスの動きを数字キーで制御するなど)、キーボードの認識時間を変えたり、複数のキーボードを押さえるのを(シフトキー、コントロールキーなど)サポートする機能、アラート・メッセージを音声で伝える機能、ファイルを音声で呼び出せる機能などがあり、それぞれ小さい容量で操作ができるしくみになっている。マックOSは、こうした機能、そして後述するサードバーティによる機能、ツールに対応すべくプラットフォームが整備されているわけである。
そうした基本的なアクセシビリティへのアプローチに加えて、かなりの充実度を達成しているのが、一般の障害者向けのサイトである。これはアップルの製品情報、アクセシビリティへの取り組みの広報的情報を超えて、障害者へのサービス提供を行うサイトとして位置付けることも可能なほど、優れたコンテンツとなっている。
サイトは、障害の種類に分けてアップルのアクセシビリティ製品、サードバーティによる製品を閲覧し、さらにはソフトウェア、ハードウェア、その他の入力デバイスの違いによって求めるツールをサーチできるような検索機能まで盛り込まれている。その上、障害ごとに関連機関へのリンクや、障害を持ちながらコンピュータを利用したクリエイティブワークやビジネスで成功を収めている人々のストーリーなども掲載されていて、このサイトを訪ねてくる障害者のために情報へのアクセスをサポートしている。ここで非常に使いやすいウェブ・デザインが実践されていることも、また見逃せないポイントだ。
ユニバーサル・デザインやアクセシビリティのデザインは、製品だけにとどまるものではない。ウェブサイトでの情報提供やサポート、そしてオフラインでの活動などが総合されて、その企業のユニバーサル・デザインへの取り組みが定義される。アップル・コンピュータは、ウェブサイトの充実度においても、最大限ユーザビリティに敏感な同社のその強みを発揮していると思われた。

2.6. Dell Computer

デル・コンピュータは、マイクロソフトのスタンダードによるソフトウェアでのアクセシビリティ、および508条が定めるハードウェア上のアクセシビリティを確保しているが、それ以外にも身体障害者向けのコンピュータ機器を開発することで知られるイヴァス (Electronic Vision Access Solutions) 社と提携し、PCのカスタム化、付加機器などを提供している。
イヴァス社の製品は、およそ100種にもおよび、視覚障害者、聴覚障害者、身体障害者に向けたソフトウェア、ハードウェア、周辺機器などを幅広く提供している。さらに、障害者がコンピュータ機器を購入する際に、機器を選び、見積りを出し、システムを構成するといった一連の手続きが同社のサイト上でアクセシビリティ操作によって行えるよう便宜をはかっている。さらにデル社側では、発声障害、聴覚障害者用に、TDD / TTYシステムを導入し、製品の注文がリアルタイムのチャット風の画面で行えるような方法を採っている。低価格と配送のスピードで勝負する同社が、自社ではアクセシビリティ製品そのものの開発を行わずとも、専門企業との提携によって広範な障害者向けのサポートを行い、さらに購入に際しては便利なシステムを導入して迅速に正確に受注できるようにしているのは、デルという企業らしいアプローチに思われた。

2.7. HP(ヒューレット・パッカード)社

HPは、自社サイトの中に障害者を対象としたページを設け、アクセシビリティへの対応製品を検索することができるデータベースを提供している。車椅子利用者でも使える大型のジェットプリンター、大きく間隔が離れたボタンによる操作、ディスプレー画面による作業進行状況の提供など、一般レベルでのさまざまな細かな配慮がなされた製品を、ここで知り、そのスペックを詳細に検討できるようになっている。
アクセシビリティ専門の機器については、限られた機種以外自社では開発せず、その代わり、サイト上にそうした機器を開発している企業へのリンクを設けて、視覚障害者用製品、聴覚障害者用製品、身体障害者用、認知障害者用製品など、それぞれの目的別に細かく対応している。同じく自社で製品を開発していないデルと比較すると、HPの場合は単一の開発企業ではなく、10社以上の企業をリンクさせており、HPが独自の選択基準によって最適機器を選んでいるものと思われる。その中には、頭の動きをトラッキングして入力操作に変換するなどの、先端的な機器も含まれている。
またデルと同様、注文に際してはTTYを用いた顧客サポートを行っている。

2.8. まとめ

企業のユニバーサル・デザイン、アクセシビリティへの取り組みには、さまざまなものがある。ハードウェア、ソフトウェアなどにおいて独自のスタンダードを確立しようとしているかどうかは、そのコンピュータ関連企業の成立、発展の歴史や、市場における占有の度合に依るところが大きいことが明らかにわかる。しかし、今後の課題は、現在キー操作やOS、アプリケーションにおいて基本的なアクセシビリティが確保されているものの、そこから飛躍した真のユニバーサル・デザインとして世に問うほどの製品が、まだまだ未開発であることだ。新技術とユニバーサル・デザインへの視点を、コストや開発の点でも効率的に統合し実現していくには、各社がそれぞれの強みを生かしたアプローチが有効になるだろう。特に、デザイン部門のアイデア提案が重要な役割を担うであろうと予測される。 

ー『ユニバーサル・デザイン:アメリカ企業動向』Vol.3へ続くー