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『デザイン方法論の日米比較・分析』 連載―4

永木康人 NECデザイン USA(S 58年度卒)

目次

4.日本のデザイン組織への示唆
 4-1. デザインの対象、デザインの領域は拡大する
 4-2. デザインはますます複合化する
 4-3. 未だ存在しないものをデザインする方法論
 4-4. 多様化するプレゼンテーションの方法
 4-5. デザインからコンサルタントへ(デザインを広く定義する)
 4-6. 組織内の知識を高める必要性
 4-7. 他者を巻き込んだデザイン方法論が求められる
 4-8. デザインクオリティー・マネジメントについて
5.コーポレートコミュニケーションの視点
6.リテンション・ストラテジー

4.1. デザインの対象、デザインの領域は拡大する

デジタルテクノロジーを搭載した機器が一般的に広まるにつれ、デザイナーにとってのデザインの対象は必ずしもモノに限定されなくなった。従来、モノのデザインは、オリジナリティーの高いプロダクトやインタフェースデザインを事業開発部門へ提供する役割であった。これは極端に言えば、デザイナーの専門能力を提供することであり、医者と患者の例を述べるまでもなく、医者が患者にインフォームドコンセントするに等しい。ここで重要なのは、相手は素人でありユーザーであるということである。戦略やプロセスをわかりやすく説明し、具体的な方法を可能性とともに開示する必要があった。
もうひとつに、コトのデザインがある。言うまでもないが、ハードウェア上の駆体やボタン形状あるいは画面デザインも重要だが、さらにグローバル性、動き方、インタラクティブ性、雰囲気、遊びなどの観点からモノを、モノと人の関係をとらえることがより重要になっている。今や、そうした人、モノ、時、場所などをすべて包括した上で、「エクスペリエンス」をデザインすることが重要になっているとも言われる。煎じづめて言えば、結局はユーザー自身がそのモノ、場所を体験したことで、どういった気分になったか、どう楽しめたか、心理的、身体的にどんな経験・体験をしたかといったようなことが焦点になっている。各社の技術力が拮抗している中、デザインこそが付加価値の差別化を可能にする。
他方、デザインの領域は互いにからみ合い、ますます拡大している。たとえば、ある企業がその概要をウェブサイトにして一般に公開しようとすると、ここには単に組織を縦割りしただけでは納まらない、さまざまな複雑な要素が浮かび上がってくる。三次元的な構造を持つウェブサイトのデザインは、そのまま組織自体のありかたを表現するものになる。ウェブサイト立ち上げが組織再編成のきっかけになることが多いのは、そのためだ。
 デザイナーにとっては、これまでのモノのデザインを超えて、どこまでコンテキストを広く拾い上げられるかが、デザインの質や長期的な視点を決定するものとなる。モックアップやプロトタイプを創り満足していた時代は既に過ぎ去り、いかに新たなデザインビジネスを創造し、コーディネートしていくかが重要な時代となってきている。すなわち、会社組織に依存するのではなく、「会社が何をしてくれるか」から「会社に何ができるか」への意識改革が求められている。

4.2. デザインはますます複合化する

デザインの領域が拡大するのに伴って、デザイナーは数々の異なった要素を取込みながらデザイン開発をしていくことが必要になる。テクノロジーの可変性、ユーザーの移動性、使用する場面、時間の多様化など、物理的、心理的、社会的ないろいろな要素が常に変化している。こうした中で、バランスとストーリーをどう見出してデザインを行うのかに際しては、デザイナー自身のセンスや勘に頼れる部分と、何らかの強力な方法論を得ずには成り立たない部分とに分かれるだろう。
今や、一元的なデザインだけでなく、「何をデザインするのか」というメタデザインの思考方法が必要とされており、さらにそれを見出し、それを敢行するための方法論が必要となっている。

4.3. 未だ存在しないものをデザインする方法論

スピードの速いデジタル社会においては、いろいろな製品が出現しては消えていく。しかし、ユーザーの心をつかみ、多くの市場で受け入れられるような製品は、人々が潜在的にしか感じていない欲望や夢といったような要素を抽出してこそ生まれるものだ。テクノロジーの未完成さ、大きな可能性、そして人々が未だ見たことのないものを組み合わせていくには、既存の方法論を超えたアプローチが必要になる。How Toが分散化している今こそがチャンスなのかもしれない。デザイナーにとっては、おそらくその方法論を確立することが急務だろう。また、この未だ存在しないものをビジュアライズし提案していく事こそ、デザイナーに期待されていることと言えよう。頼まれた仕事だけをこなしていては十分ではなく、新たなビジネスに投資していく事こそ今求められている。

4.4. 多様化するプレゼンテーションの方法

デザインの環境が複雑化するにつれ、デザインをプレゼンテーションする方法も、これまでのようなスケッチやモデルといった静的な方法ではたちゆかなくなっている。コンピュータアニメーションはもとより、プロモーションビデオ作成、あるいは、抽象的なイメージ映像など、プレゼンテーションの方法が問われている。さらにデザイン開発は決して線的な作業ではなく、らせん状に上向きに行われていくものであるため、こうしたプレゼンテーションが翻って次なるデザイン開発に刺激を与えるようなものである事が望ましい。ここで威力を発揮するのが、3Dデジタルデザインプロセスの導入とデザインデータベース構築そしてデザインシェアウエアーといったシステムの導入である。3Dの導入は、デザインクオリティーの向上にも寄与するが、デザインコミッションの拡大も同時に実現する。また、デザインデータベース化は、今まで数値化できにくいノウハウや経験・アイデアといったものをいかに取り込むか、またそれら知的資産(知的資本)をいかに共用するかがより重要になってこよう。
また、ハリウッドを支えるエンターテーメント・デザインの影響力は計り知れないものを感じるし、それを生んだこの国の教育システムの違いを感じる。小さいときから人前でのオーラルプレゼンテーションやディベートで鍛えられた能力が寄与しているといえるであろう。同じ事を押し付けるのではなく、優れた能力を発掘しその個人に合ったカリキュラムを個々に施す教育システムの違いも見逃すことができない。平等・公平とは、同じ教育を受けることではなく、その人の能力に合った教育を受ける権利なのである。

4.5. デザインからコンサルタントへ

モノのデザインを超えて、より広い領域を対象としたデザインを行うことになれば、デザイナーこそが、その対象とする組織、モノ、テクノロジーのありかたについてもっとも適切な視点を与えることができる存在となる。企業内において、開発者とユーザーの立場をより理解し、マーチャンダイズするためには、デザイナーのバランス感覚が必要不可欠であろう。
シリコンバレーをはじめ、アメリカのデザイン会社には組織の再編成、作業フローなどについてコンサルタントを行っているところも多いが、これはごく自然の発展型と言えるだろう。ある意味では、クライアントに対してそうした視点を常に提示しつつデザイン作業を行ってこそ、意義が生まれると言える。すなわち、この視点がないデザイン会社は自然淘汰される。
 Web開発専門会社(SIPS)は、ビジネス戦略を得意としているコンサルタント会社と情報システムインテグレーション会社とWebデザイン会社のサービスを一貫して請け負う新しい企業体である。背景にはWeb自体の機能が企業案内や企業広告の電子化といった時代から、Eコマース・知的資産データベース・カストマーサポート等の企業戦略そのものへシフトしつつある事が大きく影響している。このような業界再編の中、Webデザインの役割も管理的な役割から、企業内情報システムの仕組み作りまでも担うようになってきている。ここでも、デザイナーのセンスの活用が重要な役割を担っている事は他社の事例を見ても明らかである。

4.6. 組織内の知識を高める必要性

デザイン会社に限らず、アメリカの企業ではすでにありながら無駄になっている組織内知識の再利用方法を真剣に考えているところが多い。デザイン会社で言えば、ある製品のデザイン開発過程で生み出された知的財産、方法論、人脈、数人のデザイナーグループだけで共有されている情報などを、今後の作業に役立てるためにどう保存、分かち合えばいいか、ということだ。コンピュータなどのデータベースをネットワーク化し共有する方法、何らかの効果的なミーティングを行う方法、オフィスの空間デザインでそうした知識の交換を促す方法、チーム編成をローテションさせる方法など、いろいろなやり方があるが、デザイン会社が競争力を保つには、今後この問題は避けて通れない。

4.7. 他者を巻き込んだデザイン方法論が求められる

一昔前までのデザインとは、有名な誰かのサインがされているものを指していた。デザインの固有性は、優れた個人の感性や頭脳から生まれるものという信仰や幻想があったからだ。
現在アメリカのデザイン会社は、軒並みこうした方法論からの離脱を図っている。チームの瞬発力、相互刺激力などを利用したデザイン開発の方法論、場合によってはユーザーまでをも巻き込んだデザイン方法論が、人々の心の中を探り、市場の底で胎動する動きを把握するのに、より適していると考えられるようになったからである。このことは、個人のリーダーシップに依存する欧州デザインと大きく異なり、チームでのデザイン・ユーザーを取り込んだデザイン開発には、それぞれ最大限の結果を生み出すための方法論が必要となる。デザイン会社は、今後数々の新しい方法論を考察し生み出す場としても機能しなければならなくなるだろう。また、これらを受け入れるスペシャリストの尊重、各部門の独立性、チームワークを可能にするコラボレーション精神の浸透が背景にあることを忘れてはならない。

4.8. デザインクオリティー・マネジメントについて

人気があり、優れた製品になればなるほど、社外の第一線のデザイン会社にデザインを依頼していることが多いのがシリコンバレーのテクノロジー企業である。コンピュータでは価格が競争の最大の要素とは言うものの、特に携帯機器、携帯電話などの分野では薄く軽い、スマートなデザインの製品が好まれる傾向がある。
こうした製品は、かなり速いスピードでバージョンアップが進むこともあり、前の製品とのアイデンティティの連続性、強い個性の表現が重要になる。こうしたことを実現するための方法論として、デザイン会社の強い個性、デザイナー自身の統合性以外にはどんな形式的な方法論も役に立つとは思われないが、それに貢献していると考えられることが2点ある。
ひとつは、デザイン作業の大部分がチームで進められることである。バラバラに進められたもののコズメティック(外側のみかけ)だけを最後につくろうのではなく、内部のメカニズム、ハードウェアのデザイン、ソフトウェアのデザインなどが最初から同時進行する。このためには、互いの合言葉のようにデザインのスキームを固めていくことが必要で、それが結果としてデザインのクオリティ、アイデンティティを確立するのに役立っている。
もうひとつの方法は、データベース化である。デザイン・プロセスの各段階で行われた作業をデジタルメディアによって記録していくのがそれだ。この作業は、その時々で進んでいる作業を客観的に顧みる機会を提供すると共に、時系列的に製品のデザインを検討する材料となるものだ。また、シェアウエアーソフトにより時間・場所等に関係なく、これら知的資源を共有する事が可能になる。ここで重要なのは、ただ単にスケッチ・図面・写真等を記録し、ブロシュアーや年報に載せることが目的ではなく、共有することによって、デザイナーの感性やセンスを増幅することにある。すなわち、デザインプロセスの段階で、デザイン評価や他のデザイナーの意見・アイデアを取り込むことが重要であろう。Aliasは、その意味でもモデリング・レンダリングに優れたツールであるが、コンカレントエンジニアリングによってデザイナーが作ったデータを一気通貫に製造までつなげるメリットこそ注目すべきであろう。

5. コーポレートコミュニケーションの視点

シリコンバレーの企業は、歴史が浅くスタッフが若いこともあって、一般的には広報部の対応が十分に訓練されていないことで知られる。また、問い合わせなどをしても、電話で実際の担当者に話ができるまで時間がかかることが多く、その面ではすぐれたコミュニケーションとは言えない部分が目立つ。ただ、それをカバーするに十分の情報を提供するのが、企業のウェブサイトやその他のイベントである。
アメリカ、特にシリコンバレーのテクノロジー企業のウェブサイトは、かつて「ブロシュアウェア(企業概要)」と呼ばれたような、一方向的で形式的な情報サイトとは一線を画している。その企業の製品、サービスの情報から、業績報告、重役のプロフィールはもとより、場合によってディスカッショングループなどへのリンクが充実している。中規模程度の企業ですら数100ページのサイトを構えていることもあり、ほとんどの情報はここから入手できると言って過言でない。企業活動そのものを言われる所以である。
こうした正式の広報活動とは別に、企業の存在をアピールするのが、方々で開かれているコンファレンス、ディスカッションなどの場に、企業の重役レベルの人間がかなり出席していることである。シリコンバレーの地元の組織、チャーチルクラブは月数回の会合を開催し、その時々のテクノロジー、経済のテーマの元にランチョンやディナーを食べながらパネルを見るという機会を提供しているが、こうした場に地元の企業の社長や重役が並んでいることが多い。さらにテクノロジー業界でよく開かれるコンファレンスも、こうした企業からの参加者が目立ち、結果として企業のコミュニケーションの役割を果たしていることになっている。そして彼らは、一様に雄弁で個性的であり、企業のスポークスマンとしても有能である。特に、デザイン担当役員は、社会・地域への貢献、文化・芸術活動への参加等、企業の「顔」としてのやくわりを担っており、マスコミへの露出度も多い。そして、とても魅力的である。

6. リテンション・ストラテジー

シリコンバレーでは、デザイナーの一社定着年数は2〜3年が平均値と言われている。デザイナーに限らず、誰もがよりよい職場(報酬、クオリティの面で)を求めて流動的に企業間を転職する。優秀な人材を引き止めておくのは容易なことではなく、その人材が満足できるような機会を企業内で与えることが必要になる。すなわち、市場性のある社員をいかに引き止められるか、また市場性のない社員の首をいかに早く切るかが、企業の勝ち残りにつながる時代である。
一般的には、上司や人事担当者と社員との間で年に数回行われる業績に関するレビューがある。その年に達成したい目標、マスターしたいスキルなどを話し合い、その年が終了するとその達成度を検討するというものだ。さらに企業内のメンター制度なども、その人材が何を望んでいるかを仕事に反映させていく役割を果たしている。
日本においては、全ての社員へ均一な待遇、業務、機会等を与えることが平等と考えがちであるが、米国では、その社員に合った待遇、業務、機会等を与えることが平等であると考えられている。すなわち、OJTやローテーションにより多くの部門を経験させ、将来の昇進に結びつくと個人の意志よりも会社の都合を優先させる。その結果は、同じようなゼネラリストを大量に保有し、いつしか社内のみでしか使いものにならない人材ばかりとなってしまう。その上、有能な社員による利益を無能な社員への報酬に平気で分配する。これでは、有能な市場性のある社員が先に転職し、その会社でしか通用しない社員のみが残っていく状況になるであろう。これからは、無能な社員を早く辞めさせることよりも、いかに市場性のある上昇志向の強い人材を、会社にとどめるかが重要となってくる。
だが、上昇志向の強い人材にとっては、結局は自身の履歴書の内容をどんどん高めていくことができるような、よりおもしろい仕事、より手厚い報酬が働きがいの基本になる。それを提供できない企業は、優れた人材を引き止めておくことはできないだろう。

  (本連載は今回をもって終了させて頂きます。
  次回は番外編「日本のインハウス・デザイナーに期待すること」を掲載予定。御期待下さい。)