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『デザイン方法論の日米比較・分析』 連載―2

永木康人 NECデザイン USA(S 58年度卒)

目次
2シリコンバレーのデザイン会社
 2-1. プロダクトデザイン
 2-2. 特許取得型デザイン開発
 2-3. リサーチ重点型開発
 2-4. 空間デザイン、ふるまいのデザイン
 2-5. ウェブデザイン、コンサルタント
 2-6. インハウス・デザイン

2-1 プロダクトデザイン

既存の意味でのプロダクトデザイン会社は、シリコンバレーにも大小多数存在する。テクノロジー企業は、インハウスのデザイン部門を抱えていることが少ないため、こうしたデザイン会社がプロダクトのデザインを請け負っていることが多い。実際のところ、プロダクトデザインだけに絞ったデザイン会社の活動は、シリコンバレーではその存在感が沈みがちだ。

2-2 コピーライト取得型デザイン開発

シリコンバレーのスピーディーな製品開発に歩調を合わせるべく出てきたのが、このタイプのデザイン会社である。主な例として挙げられるのは、パロアルト・デザインオフィス。同社では、デルをはじめとした量産型のコンピュータのデザインを行っているが、まず基本型を何型かデザインし、クライアント側の納期と予算の如何に従って、場合によってはそのまま、他の場合にはそこにバリエーションを加えるといったかたちでデザイン開発を行っている。
同社にデザインを依頼した場合、クライアント側はその基本型に対するコピーライト料にデザイン開発料を加えた費用を料金として支払うことになる。この方法を採用する利点は、何よりも時間的な制約に対応できること、少ない資金で新しいデザインを入手できること、ハードのエンジニアリングもスタンダード化することによって、基本型は同じでもデザインにバリエーションをつけることでまったくの異なったデザインを可能にしている。
パロアルト・デザインオフィスは、こうした方法論をさらに進めて、プラスティック・パーツ製造にも取り組んでいる。基本型の鋳造型を所有し、そこからバリエーションを生む、その製造自体をスピード化しようというものだ。パーツはどれもスナップ式で組み立てが簡易にできる。同社は、主なクライアントであるデル・コンピュータの本拠地、ダラス近くに工場を持つほか、東南アジアでも製造拠点を構えている。
デザイン会社から派生、発展して、製造まで手掛けることになった例と言えよう。今後このような、ものづくり全体をコーディネートするデザイン会社が増えるであろう。

2-3 リサーチ重点型開発

シリコンバレーで目立つのが、このタイプのデザイン会社である。最も有名なのはIDEOだろう。同社は、デザインのコミションを受けると、まずそのプロダクトの周辺で起こる人々の交流、ふるまいなどの社会的、慣習的な環境を調査する。その際に用いるのは、オブザベーション(観察)、ヒューマンファクターリサーチといったような方法論だ。
リサーチ重点型のデザイン開発が有効なその理由は、テクノロジー製品が前代未踏のものばかりであることだ。既存の製品のカテゴリー、その使い方、そしてデザインに頼ることができないゆえに、こうしたリサーチの方法論を用いて、まったく新しく生まれる製品の使い勝手を定義する。IDEOがビジネス面でも、デザイン面でも大きな成果を収めているのには、こうした背景があるのは確かだ。

2-4 空間デザイン、ふるまいのデザイン

IDEOおよびその株主であるオフィス家具メーカーのスティールケースは、新しいテクノロジー時代におけるオフィス空間を積極的に提案することでも知られている。また、建築設計事務所なども、こうした領域に進出している。
これまでのオフィス空間と、こうしたデザイン会社が提案するオフィス空間との違いは、その場所がどれだけ社員のインタラクションを促進し、知識を交換するのにふさわしい場所かに注目している点である。テクノロジーを広範に導入した企業、あるいは近未来型の職場は、組織の中のヒエラルキーがなく、組織内のメンバーの中でブレーンストーミングを繰り返しながら作業を進めていくような場所だと考えられている。上司から与えられた仕事を処理するだけでなく、アイデアを生み出し、それをさらに新しいプロダクトや戦略に転換していくような動きが期待されている。そうした作業を行う場所は、これまでのようなデスクがならんだだけの職場とは異なり、非公式の意見交換がさまざまなところで始まり、互いの情報が無理なく自然なかたちで行き来するような場所である。
スティールケースが自社のエグゼクティブ向けのオフィス空間で実験的に行っているのは、個室の壁を取り除き、同じフロアーにいるエグゼクティブたちの電話の会話までが耳に入ってくるような空間だ。フロアーの中心には円形のミーティングスペースがあり、デジタル技術を駆使したプレゼンテーション、ビデオ会議などが行えるようになっている。壁面は可動式の白板で、ここで会議をした内容は次のミーティングまで残されて、すぐに会議の中味に入っていけるような工夫がなされている。
パロアルトを本拠にするある建築設計事務所は、ブレーンストーミングの空間を設計して、その空間をテクノロジー企業や、地元の企業にレンタルするというビジネスを行っている。体育館のような天井と広さを持つ空間には、椅子やテーブルが無造作に置かれ、随所で必要に応じた集中的なセッションを進めることができる。
仕事の仕方も変わった。フルタイムの社員に加えて、パートタイムあるいはフリーランサーを組織の中に組み込んでプロジェクト・ベースの仕事を進めるやりかたを導入する企業も多い。結局仕事とは、デスクの前に何時間座っているかではなく、どれだけ効果的なアウトプットが出せるかが決め手となる。その考えに基づき、社員のスペースの間に、こうした外部スタッフが作業する場所を設けて、職場に新鮮な流れを生み出そうとする企業も多い。こうした動きを受けるデザイン会社では、可動式のデスク、可動式の本棚など、空間や人員をフレキシブルに動かすことができる流動的なオフィス・デザインに取り組んでおり、知識マネージメントとも関連したこうしたデザイン対象は、今後どんどん増えるものと予想される。

2-5 ウェブデザイン、コンサルタント

ウェブデザインは、フロッグデザインをはじめとして、既存のデザイン会社が進出している領域でもあり、また新しいデザイン会社が多く生まれている分野でもある。
ウェブデザインの理想的な方法は、企業そのものの組織、ビジネスと直結したかたちでそのデザインを進めることである。シリコンバレーの企業ではないが、アメリカのウェブデザイン会社最大手として知られるレイザーフィッシュ(ニューヨーク)は、「ウェブデザインは組織を革新する手段」と語っている。ウェブの立体的な構造上、それをデザインするということは自然と、組織そのもののありかたを洗い直し、新しいビジネスの方法を提案するということになる。実際、レイザーフィッシュ、フロッグデザイン、さらにインターネットのビジネスサポートに進出しているIBMのインターネット・ソリューション部門、インテルなどの多くのウェブデザイン関連企業が、結局はクライアントへのコンサルタント業務として成立しているのも、そのためである。
さらに、ウェブのユーザビリティをリサーチするという、新しい分野も生まれている。でき上がったウェブデザインを多数のユーザーに使用してもらい、それを自動的に計量、分析することを請負う会社も生まれている。またウェブデザインのユーザービリティを専門にするコンサルタントもいる。ウェブデザインは、今後も多岐に分化していくだろう。
企業広報、電子商取引、掲示板など、その用途はさまざまだが、ウェブデザインは、今後大きな可能性を秘めたデザイン領域と言えよう。

2-6 インハウス・デザイン

シリコンバレーはもとより、アメリカではインハウスのデザイン部門の存在はそれほど大きくない。もしインハウス・デザイン部門があったとしても、外部のデザイン会社とコラボレーションするケースが多い。ブランドのイメージは、インハウス・デザイン部門が欠落しているからこそ、強められていくという逆説的な方法論が成り立っているとも言える。
例外が車業界である。そのほとんどがインハウス部門として社内デザイン部門を持っている。これは、デザイン機密保持の重要性が他業種と比べはるかに高いことが起因している。しかしながら、各社ともグローバル戦略の一環として主に、北米・欧州・アジア圏にそれぞれデザインブランチを持ち、グローバル化とローカライズのバランスを試みている。また、原則的には各ブランチは独立していて基本(標準化)デザイン決定時には、社内コンペ形式でデザインを決定する。すなわち自ら競争の原理を導入し、常に違う血を入れる事を試みている。まさにThinkグローバル、Actローカルである。
 この中で、特筆すべきなのがBMWである。LAにあるDesignworks/USA, Inc.は、親会社であるBMWのデザインを担当しつつ、他社のデザインも受注している。驚くことに(北米ではあたりまえだが)コンペチターのバス・大型トラックのデザインを受注している。また、Compaqのカラーリング、Nokiaのプロダクトデザインまでも受注しているのである。
 また、アップル・コンピュータ、サンマイクロシステムズの中にもデザイン部門がある。アップルは、パソコン・メーカーとしては特異な立場から、デザインを重視し、デザイナーなどのプロ市場、子供市場、そしてデザインに付加的価値を見い出す、アメリカではマイナーな消費者のために、毎シーズン画期的なデザイン・プロダクトを輩出している。アップルのデザイン部門の内状はあまり明らかではないが、ハードウェア部門下に所属し、ジョナサン・アイブというイギリス人の天才的デザイナーが数十人のスタッフを率いている。その特徴は、素材(プラスティック、タイタニウムなど)の可能性を探り、それをパソコンの新しい定義(デジタル・ハブなど)に沿ったデザインへ集約して発表することだ。デザイン戦略には、同社創設者でCEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズが直接関わっている。社内デザイナーの多くが、他社デザイナー時代にコンペにて、ジョナサン・アイブに引き抜かれたメンバーである。アップルのコンペに参加するとデザイナーを引き抜かれるといった定説が生まれている。
サンマイクロシステムズのデザイン部門は、数十人規模。主にサーバー関連機器のハードウェアのデザインを行っているが、その中の主な作業としては、近未来のプロダクトを計画、予想した「ロードマップ」の各プロダクトのデザインを先行的に進めるということも含まれる。ロードマップというのは、現在のプロダクト、市場、技術の現状に、未来の技術予測と企業の戦略をかけ合わせて、時系列的にプロダクトラインを描き出すもので、テクノロジー企業およびそのデザイナーらはこれを通して、現在と未来のプロダクトや戦略を考証していくのである。

(次回連載―3は「日本にないデザイン会社の機能、動き」です。御期待下さい。)